第3話 秘密にしてねこんな気持ち

誰だって素敵な名前をもらって生まれてくるのが当たり前だけれど、小鳥遊さんは人一倍素敵な名前をもらって生まれてきたんだな、と思う。贔屓目とか思いたければ思って良いし、それでも俺の中の基準は揺らがない。小鳥遊湊。苗字はもちろん文句をつけようがないほどにかっこよくて、名前だって格好良い。いかにも湊って感じのたたずまいだし、夢を望むみたいな名前負けしている俺とは雲泥の差だ。あと俺たちを結ぶであろう共通の友人こと、俺の保護者(少なくとも高校時代はそうやって呼ばれていたのだ、俺が狂犬でこいつは保護者ってニックネームだった)こと、阪下雄大だって案外負けていない。ちょっと名前が大げさすぎるとか雄大本人は言うけれど、ちっとも名前負けしていないと思うくらいに心が雄大であるのは、こいつに迷惑をかけまくっている俺が保証する。心が雄大で、ちょっと変なことをしたくらいのことでは怒らないというすごく優しいやつでもある。本人にそれを言ってやると、他人への興味がないからね、なんていう恐ろしいワードを引き連れて肯定するけれど、俺は本当のことを知っている。雄大は他人に興味がないんじゃなくて、身内として判定するものにはものすごく大事に気を配るのだ。高校時代の俺が何回雄大に助けてもらったことか。ちょっと周りから浮き気味だった俺をいつでも輪の中に引き入れて、なにかグループワークでもあればすぐに俺をグループの中へと呼び込むし、とにかくきめ細やかな配慮ができていた男だったので、あれはあれでそれなりにモテたんじゃないかなと思っている。バレンタインは毎年憂鬱そうな顔をしながら女子からのチョコを受け取って、そうして家に帰るとそのまま捨ててしまうと言うのが恒例だった。甘いのが好きじゃないとか、誰かの手作りが怖くて食べられないとか、そういうかわいくてありがちな理由じゃなかったのを、今でも昨日のことのように覚えている。


「雄大はさあ」

「なあに?」

「名前負けしてないから、そのままでいろよな」

「……私はそのままでいるし、どこかに引っ越す予定もないんだけど。家賃もうちょっと高くても暮らせるようにはなったけど、望夢のこと置いてどっかに引っ越そうとかも思わないし。どうして急にそんなことを言う気になったわけ?」

「小鳥遊さんとさ、おまえが付き合ってたら、俺、邪魔じゃね?と思って」


だから幼なじみだって言ってるでしょ。呆れた声のトーンで言いながら、さっきまでの俺と同じようにラグに寝転がり、そのままスマホをさくさくと触り始めた。これは、小鳥遊さんと雄大、本当に付き合っていないのかもしれない。なぜならこのポーズは人間の三大欲求を解放するためのセがつくアレを探しているときのポーズだからだ。マッチングアプリを使って、性欲を解放するための相手を探すとき、雄大はいつでもこうやって寝転がる。仰向けになって両手を伸ばしながら。ひとつひとつの相手を見定めていくらしい。ワンナイトの相手ならそんなのをいちいち使わなくてもいけるだろうに、良い感じだったらワンナイトで終わらせたくないじゃん、とか言ってアプリをいじっているのだ。マッチングアプリねえ、と心の中で吐き出しながら、せっせかとスワイプしていく雄大を見る。雄大は自分に自信があって、それでいて顔も見た目もわかりやすく男性で、肉付きもがっつりしているから、その、こっちの世界ではかなり人気が出る。ちなみに俺の場合はマッチングアプリなんか怖くて手が出せないから、バイト先で良い感じになった男性としっぽりすることにしている。マッチングアプリってなんだか人間同士のやりとりというより、見定め合うみたいでどこか怖いものを感じる。ゲイ専用のがいくつかあるよと雄大に教えられたけれど、そもそもどこの誰かわからないひとに自分の顔面を見せてから審査してもらう、みたいなその流れがどうにも好きになれないのだ。運命なんか信じてないけど、一目惚れも信じないし、そういうわけで俺が小鳥遊さんにきゅんとしてしまったのだって偶然だということにして片付けている。そりゃあどうやっても倒せない屈強なモンスターに追いかけられたのをかばってくれたら、誰だって好きになるでしょうよ。それはつまり吊り橋効果みたいなものだから、これは恋じゃない。そうやって感情と微妙にずれたレッテルを貼り付けることによって、俺は毎回恋愛から逃げている。どこかの誰かの紹介や、バーでの上司の紹介なんかでワンナイトの相手や恋人を見繕ってきたんだから、そうなるのも当然だと思っている。


「だから私と湊は付き合ってないんだって」


何回説明したら理解してくれるんだよ、と軽く吐き捨てるように言う雄大を見て、やっとその言葉を信頼する気になってきた。人間不信っぽいところがあるから、大目に見て欲しい。知ってるだろ、俺が高校を出てからどうやって生きてきたかくらい。おまえだってバーの立派な常連客なんだから、店長や他のお客さんから聞いたこともあるだろうし。しかたないじゃん、そういうの。そういうもんだと思って割り切って欲しい。ていうかいつもなら割り切ってくれていたじゃん。そのうち雄大と小鳥遊さんが付き合っていないという確信を得られたら、そのときに信じるってことでいいじゃん。だめかよ。すぐにすぐどうにか信じろと言われても、それはちょっと難しすぎるというのを理解して欲しい。雄大にはないだろ、俺がここまで卑屈になるようなライフイベントなんて。高校時代の俺は、もうちょっと明るくてもうちょっと元気だったし。今でもどこも悪くないくらい元気だけど、人間不信みたいなところはちょっと、ちょっとだけ、あるから。

小鳥遊さんはあれからすぐに帰った。もっといてもらってよかったけれど、借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった俺を心配して、それから二人が付き合っていると思い込んでしまった俺の対処を雄大に丸投げして、そのまま帰ってしまった。連絡先くらい聞いておけばよかったな、というのは俺の本音であり、邪な感情でもある。あんなに格好良くてイケメンで優しくて筋肉もついている男なんか、俺の好みでしかないんだから。俺の好みは昔から変わっていないのを、もちろん雄大は知っているはずだし。……そう考えてみると、やっぱり雄大は小鳥遊さんと付き合っていないのかもしれない。そういう見せびらかすようなことをやるのは雄大じゃない。ていうか雄大の好みは俺と違うから、今までの雄大の彼氏を欲しいなんて思ったこともない。

アラサー、というか三十路に突入してから思う。恋人に求める理想みたいなものは、もうほとんど木っ端みじんになってしまっている。一番大事なことは、相手がヘテロセクシャルではないということ。ヘテロと恋愛をしてしまったら、というかヘテロに恋をしてしまったら、それこそあの大男に追いかけられた昨日のようなことが起こりかねない。そりゃあね、俺だって大好きな人とひとつになりたい、みたいな欲望はまだある。枯れてなんかないんだから。欲望があるのだから、ヘテロ相手に発情(あえてこの言い方をする)したら修羅場待ったなしになってしまう。だから、恋愛をするときはちゃんと相手が最低限バイか、ゲイであるかを見定めてからにしているのだ。同居人の雄大くんなんかはそのあたりの厳選っぷりがとても徹底している。まずはリアルの世界で恋に落ちないようにしている。心の中にスイッチを作って、そこを押したら好きになる、みたいなことを密かにやっているらしい。意味がわからないけどまあいいんだ。雄大ってそういうちょっと不思議なところがあるから、いちいち指摘していたんじゃ日が暮れてしまう。そのスイッチの話を思い出すたびに、俺は小鳥遊さんを好きになってしまったんじゃなかろうか、というドキドキする感情が沸き起こってしまう。昨日のバイトもお客さんにオーダーを間違えてしまったし。ついうっかり小鳥遊さんのことを考えていたら、いつも隅に座る常連さんが小鳥遊さんに見えてしまったりして。重症な恋煩いを抱えてしまったのだと思いながら、できるだけお客さんのほうを見ないようにして、そうしてやりきってみせたけれど。


「なあ」


本当に、小鳥遊さんと雄大って、付き合ってないんだよな。その一言を口に出すのがどうしてもできなくて、呼びかけるだけに止まってしまった。それでも雄大のすごいところのひとつなんだけど、俺が言いたいことを察知してくれるように、次の言葉をつなげてくれる。本当に良い親友を持ったと思う。自慢したい。小鳥遊さんに自慢したい。俺の親友はちょっと性的に奔放がすぎるけれど、それ以外はとってもいいやつだってことを、地球上で悩んでいるゲイたちに送りたい。恋人がすべてじゃないのだ、ゲイライフは。恋人がいればそれが一番大きな戦力になるけれど、それだけじゃない。なにか生きがいを見つけることで生活は充実するようになるし、友達だってたくさん作って良いのだ。というか、友達をたくさん作っておかないと、最終的にひとりぼっちになってしまう。だから友達はできるだけ作っておいた方が良い。友達から恋愛に発展してしまうのは俺の管轄がだけれど、友達を作りたいのなら是非、俺の職場に客として遊びに来たら良い。ゲイとバイしかいない、俺たちのようにいろんなことに配慮しながら生きなきゃいけない人間にとって、なにも配慮をしなくて良い楽園のような場所だから。そりゃあ、お互いのことを思いやって交流する、というのは当たり前の話なんだけれど。ワンナイトの相手を見繕っても店長は怒らない。俺が客に手を出そうとすると店長が怒るけれど、それは店の秩序を保つためだ。当たり前だけれど、好みの男性が来ちゃうとちょっと、なんていうか、興奮してしまう。昨日の角に座っていたあのお客さんもそうだった。


「本当に湊と私が付き合っていないのか知りたいわけだ。はいはい」

「まためんどくせえこと言い出したって思ってんだろ」

「まあねー、もう慣れたから良いんだけど」

恋だなあ、きらきらしてんね、と雄大がつぶやいた。

「そんなにキラキラしてる?……いやまだ恋だと決まったわけじゃねえよ」


恋だとはまだ自分の中で認めていないから、これは恋じゃないということにしている。恋愛なんかまともにしてこなかったから、こういう場面での経験値が少ない。それに、そういうときにどうやって相手の追求を交わすかもわからない。一目惚れなんかこんな歳でしたくない。されたらされたほうで迷惑だろ。いくら雄大の幼なじみだからといって、男が二人で並んでいるからって、そこに特別な感情を見出そうとする厄介オタクみたいなことをしているなんて、知られたくない。雄大には学生時代からの癖だと理解してもらっているからいいけれど、小鳥遊さんには絶対に知られたくない。子どもっぽいにもほどがあるし、そんなことを知られてしまったら、あの柔和な雰囲気でばっさりと切って捨てられてしまうかもしれない。ていうか、切ってくれるだけでまだそこに優しさが詰まっているということを忘れてはならない。俺は恵まれているのだから、現状を維持することにつとめなくてはならない。恋愛なんかしている場合じゃない。いつまでもバーのアルバイトで生活を立てるのは苦しいし、雄大だってもっと大きな部屋に引っ越したいかもしれない。だから俺はもっと、もっと頑張らなきゃいけない。


「湊はバイセクだよ」


それからタチ専門だから、と付け加えられることによって俺の頭がシュー!と音を立てて壊れるような音がした。壊れるというか、もう壊れているのだと思う。手持ち無沙汰でテーブルの上に置いてあるスマホを触っていたはずなのに、思わずどこか遠くに投げてしまったくらいだ。慌てて飛んでいった鈍器が音を立てたほうへ、パタパタと急いでスマホを回収しにいく。画面が割れていませんように、と祈りながら手を伸ばして、画面の割れ具合を確認した。どこも割れていないけれど、びっくりした。頭の中で鳴ったシュー!という音は、思考回路がショートした音なのかもしれない。どっちでもなんでもいい。よりによってバイセクシャルとは、神様は俺にだけ意地悪なのかもしれない。バイセクシャル。バイセクシャルだぞ、バイセクシャル。そんなことがあっていいのだろうか。バイセクシャル。同じ言葉を何回も口の中であめ玉のように転がしていたら、ついうっかり、ポロリと口から言葉がこぼれてしまった。


「バイセクシャル」

「うん、昔から。だから私はつらくなかったし、湊もそれなりにつらい思いはしていないはずだよ。幼なじみがお互いに女より男に興味を示していたのは、両親にとっては頭が痛かったろうな」

「バイセクシャル……」

「湊の両親も私の両親も、私たちがゲイやバイセクとして生きているのを知っているから、なにも困ることはないんだけどね」


両親の理解があると便利だよね、と雄大が笑った。確かにこの部屋を借りるときに保証人として雄大の父親が名乗り出てくれた。俺の家はそこまで友好的ではないので、男友達とルームシェアをする、くらいの話しかしていない。住所はさすがに雄大からのお願いで、両親に共有してあるけれども、だ。大学をやめたくらいからちょっとずつ歪みが目に見えるようになって、店長の協力でバイト先がただのバーだと伝えてあるくらいだ。バーはバーでもゲイが集まって酒飲んで楽しく過ごすバーなんだけど。そんなことを伝えてしまったら、ルームシェアの話すらなくなってしまいそうで、三十路をすぎた今でも両親は俺がバーで働いていると思っている。実際バーで働いているのだけれど、そのバーにくる客層が客層なので、ちゃんとは説明していない。だから、うらやましい。そこまで開けっぴろげにできる関係で育ったであろう親友も、それから同じように両親に理解をされているであろう小鳥遊さんも、うらやましい。うらやましいし、できることならその家族の一員になりたいくらいだ。小鳥遊望夢、いいなあ。バカなことを考えている自覚はあるけれど、俺だってそれくらい追い詰められる日だってあるのだ。それがたまたま今日だっただけで。たまたま、それが、自分という人間を理解されていなかったとわかった次の日で、前日のあれやこれやをようやく整理できたタイミングだっただけで。小鳥遊さんも、それからもちろん雄大も、どちらも悪くないのだから。俺だって悪くないはずだ。この思考回路の中身を誰かにぶちまけたりしてなんか、いないんだから。


「そういえばバイセクシャルで思い出したんだけどさ」

「……小鳥遊さん、モテるんだろうなあ」

「まあおまえほどじゃないけど普通にモテる男だよね、湊は。湊はちゃんと相手に求められたらある程度は答えてくれるタイプだからさ」

「彼氏にDVされそうになって逃げてたところを助けてくれたんでしょ?」


あ、なんか伝言ゲームが事故ってる。いちいち訂正するべきか、それとも訂正しないでそのまま放っておくか。小鳥遊さんも俺がDVされそうになったって信じてるんだろうな。はずかしいような、うれしいような。家族とは折り合いがよくないし、友達もあんまりいないし、俺のことを案じてくれるひとといったら、集客力があると言ってくれたバイト先のバーの店長くらいのものだ。それだって無償じゃない。無償で心配されたのなんか、本当にひさびさで、心の奥の方がじんわりと締め付けられるようになった。

訂正しようか。小鳥遊さんにも伝えてもらえばいいはずだ。全部俺がちゃんとしていなかったから起きた悲劇で、俺がちゃんと相手のケアをしてやれば、なにひとつ起きないトラブルだったのだ。こうやって俺には何でもかんでも大事なものから逃げようとしてしまう悪い癖があるから元彼も怒ったんだろう。怒ったんだろうな、きっと。悲しかったのもそうだと思うけれど。小鳥遊さんを連れてきた瞬間の感情を思い出しながら、百面相をする。目の前で手が振られる。もういいか、言ってしまえ。相手は雄大だし、訂正しておくに限る。でも、DVされそうになっていたように見えるなんて、意外だったのも事実だった。顔がそれなりに整っているからなのか、昔から力任せでなにかをされたことがなかったから。力任せに腕を拘束されたあのとき、俺は確かに怯えてしまったのだ。同じ男性で、年齢もほとんど変わらないのに、それなのに圧倒されてしまった。

どうしようかなあ。DVじゃないって伝えておいてもらうだけでもいいかな。それだとまたDVを受けそうなのに依存しているから離れられないかわいそうなひと、って風に見えてしまうかもしれないか。ちゃんと別れ話がこじれてもつれて、って言ったほうが良いか。でもそうすると今度は雄大の機嫌が悪くなる。雄大は学生時代に俺の保護者を名乗っていただけあって、かなり俺に加えられる暴力や理不尽に敏感になっている傾向がみられる。別れたって言ったら、フった相手を殴ってやるとか言い出しそうで怖い。でも確かに、それくらいに見方をしてもらってもおかしくないくらいには、俺はあのクソ野郎のためにいろんなことをしてやったし、かなり尽くしていたのだから。


「やっぱあの彼氏やめたほうがいいよ、私はおまえが心配だ」

「うーん、……それなんだけど、さ」

「どれ?」

「彼氏がDVっていうの。多分、小鳥遊さんの勘違い。俺らは、別れ話してただけ」

「えっ!?全部違うじゃん!望夢、フったの?」

「フラれた」

「でもあそこの駅前で、めちゃくちゃでかい声で名前呼ばれてたんでしょ?喧嘩かと思ったって湊言ってたよ」

「だからー、……相手、俺で勃たなかったから。ノンケだったってことでフラれたの」


何回もフラれたって言わせるんじゃねえよ。ちょっと頭にきて手のひらを握りこむと、めざとく気付いた雄大が、マッチングアプリを使うのを止めて、俺の手のひらを優しく撫でてくれた。どうして俺はこいつを好きにならないんだろう。どうしてこいつは俺のことを好きにならないんだろう。悲しくなりながら、マッサージのように撫でられる手のひらをじっと見ていた。

俺たちの高校は有名な進学校だった。逆に校則さえ守っていれば、俺たちは最低限どんなことをしてもよかった。成績がよかった俺と雄大は、ふたりで屋上で恋愛について語っていたのだ。どちらからも同じようなニオイでもしたんだろう。わかるよ。俺は一目見るだけでゲイかどうかが大抵わかるし、それもあんまり外したことがない。こういうのは本当ならば自分が告白するときに可能性があるかないかを判断するために使うんだろうけれど、俺は一度だって自分で告白したこともなかったので、単純にレーダーのようなものとして認識していた。高校に入って仲良くコイバナをした相手は、高校で最高の親友になった。そうしてルームメイトにまでなった。それなのに、それなのにだ。雄大は俺のためになんでもしてくれるっていうのに、俺は雄大になにもしてやれていない。友情はギブアンドテイクだと笑う雄大は、俺にだけはこうやって甘いのだ。

同じひとを好きになってしまったこともある。わかりやすくモテていた雄大は、その先輩のことが大好きだった。けれども俺は同じ先輩を好きになってしまった。告白しようとまで考えていた雄大は、もうすでに告白してフラれたと嘘をついた。フラれたからおまえがいってみろ、とでも言うように。ただ、何回も繰り返すようだけれど、俺は自分から恋愛のために動いたことは一切なかった。告白されたらそのひとのことを好きになるし、告白されなかったら脈がなかったんだと思って忘れるようにしていた。雄大はそうじゃなかった。小さい頃から男性に告白をしては、雄大の両親を困らせていたらしい。それでも最終的にゲイの息子がルームシェアをすることに賛成して、保証人にまでなってしまうのだから、すごすぎる話だ。懐が大きいんだろうな。結局俺は先輩に告白をしなかった。先輩が俺に告白をしてこないから、そういうものだったんだな、と諦めた。格好良くてムキムキマッチョの先輩だったから、あの胸板に抱かれてみたいものだと夢を見た。告白されなかったから、無理だった。そういった俺に、雄大は笑いかけた。すごいやつだと思った。俺には同じことができそうにない。


「あのときさあ、先輩に告ってなかったから雄大、急いで告白しにいったよな」

「そうだっけー?」

「そうだよ。で、付き合ったじゃん」

「ちょっとだけね。ね……あのさ、湊、どう?好きになりそう?」

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