第2話 心の中の額縁を占拠するひと

ただいま。誰もいないはずの部屋に声をかけて、そうして同居人がどこに行ったかを考えながら部屋の電気をつけていくのがルーティンワークだ。電気代は侮れないけれども共同生活者である同居人はこのルーティンを否定しないので、それにすっかり甘えてしまっている。そもそも俺と同居人の出会いは高校時代だし、大学はそれぞれ別だったけれども、俺のゲイバレ大騒動のおかげでどうしてかかなり親しい関係になってしまって、そのまま一緒に暮らすことを始めたようなものだ。だからお互いのことを恋人にするなんてあり得ないし、おならだって好きなタイミングでぶっこいている。好きな人相手だとこうはいかないだろうし、この遠慮のない関係がどうにも心地よくて、お互いにどちらが独立するような話もなく、だらだらと三十路をすぎてもなお、二人でルームシェアをして暮らしているのだ。俺は俺で不安定な収入だし、同居人は同居人で身の回りのことをいっさいやりたがらないので、バランスが取れているはずだ。そんな同居人の名前は阪下雄大と言って、名前負けしないくらいにはおおらかな男だし、俺がたまに別れた元彼の話をしながら世の中のキャンペーンとでも言いたげなものに対して文句を並べていると、まあそういうのは言い出すとキリがねえから、となだめてくれていたひとでもある。そんな雄大は今日、幼なじみと会ってくるとかで出掛けていった。朝出かけたときにはそりゃあ楽しそうにして、お互いに今日の楽しかったことを報告しような、なんてことまで言っていたのにこのザマだ。最後の電気をパチリとつけ終わってから大きく息を吐き出して、特大のため息をこぼしてみる。そんなことをやっても別れたという事実は変わらないし、公衆の面前でまたしてもゲイを暴露されるようなことになるとは思わなかったので、なんというか精神的なダメージがものすごく強くなってしまっている。強くて大きい。ちゃんとゲイだと思って付き合ったのに、バイセクとかいう逃げ道を使いやがってこの野郎。今度マッチングアプリで相手を探すときには絶対にバイセクじゃないヤツにしよう。これだけは譲れない。ゲイやゲイの女版であるビアンには逃げ場がないのに、バイセクは両方いけるという意味でかなり逃げ場があるように思えるのは俺だけだろうか。俺だけじゃないよな。俺だけじゃないって言って。スマホに語りかけても、独り言がうるせえんだよと乱入してきてくれるいつもの雄大も、なにもない。雄大は今頃幼なじみと会ってよろしくやっているんだろうか。ゲイパレードなどの最先端の人権意識には可もなく不可もなく、勝手にやっていれば、というスタンスで傍観する雄大には、当然ながら友人が少ない。俺のようにかりそめの友人がいない代わりに、ひとりひとりとかなり密接な関係を築いているはずだ。みんな雄大がゲイだっていうのも知っている。友達に隠さなくていいっていうのは良いよな。あとは法的解釈さえしっかりすれば、この国はゲイにとってかなり住みやすい国になると思うけどね。これが雄大の口癖のようなものだ。


「それにしてもあのひと、いい胸筋といい声で、ついでにあいつよりも物腰も柔らかくて、顔もめちゃくちゃ整ってたな。良い匂いしたし」


雄大もいないのをいいことに、俺はすっかり好き放題にやることにした。まずは共有スペースと自分たちの寝室をつなぐ廊下に寝転がってみる。思い出したのは、すっかり心が冷え切ってしまった元彼のことじゃなくて、タカナシさんのことばかり。ほんの一瞬、ドラマみたいに雑踏ですれ違い損ねただけだというのに、いやに印象に残ってしまっている。こういうの、やだなあ。あのひとはどうせノンケなんだろうし、ノンケには恋をしたくない。ノンケに恋をして手に入る未来なんて、本当にたいしたものじゃない。それでも好きは好きだから告白する、というヤツがいるのは知っているし、それを聞くたびにクレイジーだなーと思ってやり過ごすだけにしていた。だってノンケはこっちを振り向かないし、何ならこっちの感情を全部面白がって遊んでいるだけの可能性だって拭い去れない。人間を信用しなさすぎだとバイト先のお客さんに言われたことがあったけれど、別に俺は人間不信でもなんでもないんだから。ただ、不毛なことをしたくないだけだという、本当にそれだけなのだ。不毛なことをして無駄になった時間に、自分のことを性的に見てくれる金持ちの石油王がプロポーズしてくる可能性だって無きにしも非ず。石油王だって男が好きなひとはいるだろうし、そういうひとの妾になって日本で粛々と暮らしていくのもいいよな、なんて天井の模様を数えながら考えて、考えて考えて、それでもやっぱり俺はノンケにいきたくないなあ、という感情が心の大部分を占めていることを再確認した。ゲイである俺が絶対に女性と性行為に及ぶ妄想なんかしないのと同じで、ノンケは俺のことを抱こうとか一切思わないはずだ。しかも女性と違って本来の役割ではないところを使うから、そういう夢だけで追われるようなロマンチックな関係だけではいられなくなってしまう。今日別れた元彼だって結局、いざ挿入で萎えたのだから、きっと目の前の光景がまぶしすぎてなにがなんだかわからなくて、そうして萎えてしまったんだろう。別に俺はどうでもいいよ、おまえが次に女の子と付き合おうとも、男の子と付き合おうともかまわない。構う権利が俺にはないし、なにより別れ方が最悪だったから、もう会いたいとも思わないのだ。タカナシさんには会いたい。タカナシって名前、苗字なんだろうな。小鳥遊湊さんって自分で言っていたような気がするし。じゃあその小鳥遊はどうやって書くんだろう。高い梨って書いてたかなしなのかな。それにしては特別な読み方を小学校くらいのときに習ったような気がするけれど、忘れてしまったものはしかたがない。タカナシさん、あの辺は良く通るのかな。俺たちのマンションの最寄り駅ではあったけれど、まさかこのマンションに用事があるってことはないだろう。タカナシさんくらい素敵なひとがこのマンションに入居していたとするなら、俺のイケメンセンサーが反応しないわけがないのだ。


「タカナシさん、かっこよかったなあ……」


元彼と喧嘩別れ、もとい別れ話をしてきて、連絡先も全部消してしまったというのに、そちらに関してはなんの感情もわかないままだ。何一つ考えられなくて、なにひとつどうでもいい。俺の名前を呼んだことは許せないけれど、それでも苗字を叫ばないでくれて助かった。大学時代のゲイバレ大騒動はなんと、フルネームで名前を読み上げられてしまったものだから。だから、そういうのはとにかく御免被りたいわけだ。その話を別れた相手にはしたことがなかったし、俺の名前を望夢望夢と繰り返したのも偶然だったんだろう。偶然であって欲しい。そうじゃないと、俺がすっかりお熱になってしまったタカナシさんとの出会いが偶然ではなくなってしまうことがあるからだ。もしもタカナシさんのことを用意したのが別れた相手だったらどうしよう。そうなったら俺はタカナシさんに誤解をされるだろうし、誤解というか失望までされるかもしれないのだ。だから、慎重にいかないといけない。こんなふうに一人の人のことを考え続けているのなんか、初めてのことだ。一目惚れなんか信じないし、一目惚れというのは脳の錯覚だとすら思っているので、そんな立場の人間がそんなことを言い出したらいろいろとまずいだろう。少なくとも同居人は笑わないだろうけれども、それでも気分のいいものではない。自分が否定していた学説の裏付けが急に取れてしまったような気持ちで、なんとなくキッチンにもたれかかったまま座り込んでみる。あんなやつだったけど、ノンケでしたと言われて別れて欲しいと言われてしまったのだって、それなりにショッキングなことだと思うけれども。それに上塗りを重ねていくように、今日は衝撃的なことが起きてしまった。ただ人混みの中でぶつかっただけなのに、それを運命かもしれないと思い込みたくなってきてしまっている。運命じゃないぞ、と冷静な俺が言っているのに、情熱的なほうの俺は、運命だから突っ走れ、なんていうのだ。

大学まではゲイであるということをそれなりに隠さずに過ごしていたので、まあなんというか、ゲイかバイとしか付き合ったことがなかった。付き合ってきたのは全部受け身。告白されたら付き合うけれど、女性の場合は行為無しってことで、ってな感じで。一応いってしまうと当時の俺はかなり美形のすらっとした中性的な男性だったから、女子にはもちろんのこと、何故か飢えている男子にも言い寄られていたことがあった。女子はともかく、男子は全員が俺のことをバイセクシャルかなんかだと理解していたために、告白してくるのはすべてノンケではない人間だった。俺もノンケかどうかで線を引いている?うるせえな、こっちは必要以上に傷ついたり傷つけたりすることがないように、ノンケのことを弾いているんだから。いざ行為に挑んでみて、ハイだめでした、なんてことになったら目も当てられなくなってしまう。まして俺も相手も高校生、視野が狭くて世界も狭いので、失敗したら自分が勃たない体質なんだと思ってしまったりすることもあったらしい。らしいっていうのは、もちろん同居人が高校時代に流れていた噂をまとめて俺に聞かせてくれているからだ。実際にそう言われていたのか、それとも一人や二人くらいが大げさに吹聴して歩いていたのか、本当のことはわからないけれど、いずれにしても高校時代の俺、早見望夢はかなりモテていた。ノンケになんか手を出さなくても困らない状態だったし、女は女で一緒に帰るだとかおいしいものを食べに行くだとか、とにかくそういうやってみたいことのために俺が引っ張り出されることが多かった。それに関しても恵まれていたなあと思う。俺がもしクラスにいるモテ男を見るチャンスがあったのなら、まあ屋上か体育館倉庫の裏にでも呼び出して、軽く一発たたいてやっていると思う。それくらいに秩序がなくて、とにかくみっともない状態だったのだ。

そんな俺が、そんな早見望夢が、一目惚れをした。一目惚れっていうのかもわからないくらいに、一瞬で心を持って行かれてしまったのだ。ノンケだったらどうしようとかそういうことを一切考える間もなく、あっという間に心を奪われてしまった。お相手の名前は、タカナシミナトさん。どこかで見たことがある顔だったけれど、そのどこかは一体どこだったんだろう。タカナシさんみたいに素敵なひとを見かけたりしたというのに、それで忘れてしまうのってどうなんだろう。自問自答を繰り返しながら、そのままゆっくりと身体を動かして、リビングのラグにそのまま寝そべってみた。ぐるぐると身体をローリングさせながら、思考回路もついでにぐるぐると回していく。ショートしない程度にガンガンと回していくべきだ。じゃないと今夜のバーのアルバイトでミスをしてしまいそうでよくない。バイトまでに心の中で決着をつけなくちゃいけない。そうしなきゃいけない。俺はそんなふうに考え事をしながらバイトをするほど器用じゃないから、今のうちに考えて答えを絞り出しておかないといけない。バイトまでの時間でタカナシさんへの感情に名前をつけてしまおう。憧れとか、尊敬とか、どこまでも動じない強さとか、そういうのにときめいただけかもしれない。絶対にそうだ、きっとそう。

タカナシさん、どこにでもいそうな男性だったんだけどな。どこにでも居そうな男性に一目惚れなんかまずあり得ないと思うんだけど。どこにでもいそうな男性とアクションスターみたいに身体がキレキレの男性だったら、本来の俺なら後者であるキレのある身体をしているほうが好きになっちゃうのに。肉付きの良いお客さんに興奮気味で話しかけて怒られたことだってあるくらいには、俺はどこにでも居る普通のひとのことを好きになるようなことはないんだけど。一目惚れだって外見が重要だし、好きになるにあたって理由が必要だし。だから、やっぱりおかしいんだよな、タカナシさん。どうして俺がタカナシさんを好きになってしまったのか、その理由が知りたい。今までは告白されたら付き合って、という付き合いかたしか経験してきていないから、自分が惚れたときにアプローチをどうやってするのかもわからない。わからないだらけになってしまって困ってしまう。誰か助けてなんていわないけれど、同居人が帰ってきたら泣きついてしまうかもしれない。だって俺、誰かのことを好きになるのって、とにかく初めてなんだから。好きになったって向こうの方が俺のことを好きだったりするから、そういうときは相変わらず俺は受け身対応でいるだけなんだけど。タカナシさん、俺のことをどうこうするのにも慣れていそうだし、アレで実は遊び人だったりするのかな。そういうのはちょっと、ちょっとイヤだなあ。三十路をすぎた人間がまるで中高生みたいなことを考えているけれど、俺の恋愛関係における情緒といえば中学生くらいで止まっているのだから、大目に見て欲しい。本人にそういう対応を頼むわけでもないし、中学生のように好き嫌いではしゃぐだけのこと、ちょっとは許して欲しい。それ以上でもそれ以下でもない。勝手に中学生みたいにはしゃいでいるだけだから、それくらいはいいだろう。


「早く雄大帰って来いよー……」


ごろんごろんとラグの上を寝転がりながら、ついつい飛び出す独り言。俺だって本当は今頃は元彼が予約してくれたであろうそれなりのお店に入って、それなりのお料理をいただいて、それから元彼はうちのバーの常連だから、そのまま腕を組んでバーになだれ込んで愛を語らうみたいな日にするつもりだったのに。全部パァだ。水の泡。だけど冷静になってから、ちょっとだけあの紳士的で素敵なタカナシさんのことも、こころの隅に置いて、考えることが生まれてしまった。元彼氏のことだけれど。これは反省として毎回やっていることだから、いくら喧嘩別れをして二度と会わないことになっていても、反省をしないといけないのだ。人間は反省から学ぶ生きものだから。ちゃんと振り返って学ばないといけないようにできている。

で、元彼の話。今日はもともとデートの日だった。レストランを予約しておくよ、という話がだいぶ前に共有されていたから、どこに連れて行ってもらえるのだろうとわくわくそわそわしていたのだ。ただ、ちょっとおかしなことも今になって考えるとあったのだ。だってまず、どこのレストランにしたかも教えてもらっていない。そういう厳粛な雰囲気のあるレストランならば、当然ドレスコードだってあるだろう。社会人だからその場で買ってそろえてしまえばいいと思うけれど、それだったらメイクだって違うやり方をする必要もある。付き合っていた頃はここまで報連相を怠るひとじゃなかったし、それが急になにもなく当日を迎えてしまった時点で、なにかイヤな予感はしていた。だから念のためにスラックスとワイシャツとジャケット、というようなドレスコードにも引っかからないように準備をしたのに。それなのに、元彼は目的地に着くなり別れようと言い出す始末。しかも自分がノンケだったからって。そんな理由で別れを告げられていいのかと思うし、それこそおまえがレインボープライドのこと踏みにじってんじゃないの、とかそんな罵詈雑言ばかり浮かんできて、だけれど全部飲み込んだ。言ったところでどうにもならない。レインボープライドだってきっと、元彼なりに考えていた結果なんだと思う。俺のことを少しでも理解しようとしてくれたんじゃないかな。器用なひとではなかった上に、俺はレインボープライドやそういう同性愛関係のものを全部遠ざけて生きているように見えるから、俺にはそういう話をしにくかったんだと思う。だから、まあ、お別れは残念だけれど、俺が蒔いた種だったのかもしれない。大きな声で名前とゲイの話をしないでくれたら、もうちょっとなんか挽回しようかなと思うけれども、それもなかったから。もう、終わりにしよう。せっかくノンケに生まれてきたんだから、かわいい女の子を探すんだぞ。それくらいのことを言ってやればよかったのに、そんなことを言う余裕すらもなかった。


「……だってタカナシさんすごいんだもん」

「呼んだ?あら、昼は大変だったね、望夢くん」

「あれ?私紹介したっけ。まあいいや。小鳥遊湊、幼なじみ。小鳥が遊ぶって書いてたかなしね」


ニコニコ笑ってぺこりと頭を下げてくれるタカナシさん、もとい小鳥遊さん。どうして小鳥遊びでたかなしと読むのかは知らないけれど、それでもあの柔らかな物腰と優しい声はそのままだった。雄大と肩組んじゃって、楽しそうにでれでれしちゃって。もうこんなの、言われなくてもわかる。小鳥遊さんと雄大は付き合ってるんだ。だからマンションまで連れてきたんだろ。非難めいた声が出てしまいそうになって、慌てて下唇を強く噛んだ。なにやってもうまくいかないってこういうのを言うのかな、と思ったりするけれど。でもこれも元彼のことも、ちゃんと細かいところまで見通さなかった俺が悪いのかもしれない。神様、ごめんなさい。あれでも、小鳥遊さん、俺のことを望夢くんって言ったよな。てことは覚えているんだ。じゃあどこで会ってどうして俺の名前を覚えているくらいになったんだろう。興味深くて聞いてみたい。


「あー……っと。まず、早見望夢。雄大とは高校の同級生で、親友みたいなもんをやらせてもらってます」


軽くぺこりと頭を下げてみる。性格の悪いところが出てしまったなと思って、また下唇を軽く噛んでしまう。もうちょっと自然に振る舞えればよかったのになあ、と思って、ちょっと落ち込みが激しい。情緒不安定とはこのことを言うんだろう。まあ、雄大はこういう俺が振られたのとかたくさん見ているから、特に心配したりからかったりも市内でくれているんだけれど。小鳥遊さんは、そうはいかないよなあ。どうしよう、こいつヤバいやつだなとか思われていたら。考えごとに没頭しすぎて、小鳥遊さんの名前を思い切り呼んでしまっていたし、玄関から雄大と小鳥遊さんが帰ってきたこともわからなかった。あー、なんだか、ものすごく自己嫌悪に陥っている気がする。元彼と別れたせい?いやいや、あんなの時間の問題だったでしょ。じゃあ一体何がこんなに俺の心を揺すぶってくるんだろう。やめて欲しい。こっちだってなあ、恋人と別れてきてて、いろいろフラストレーションたまっているんだから。そういうことをわかっていても恋人を連れてきたくなった雄大はもっとクソだけど、それに便乗

しちゃった小鳥遊さんもクソだ。みーんなクソ。


「望夢さあ、別れたんだって?あ、小鳥遊その辺適当に座って」


雄大が俺の隣に座りながら聞いてくる。そうだ、と答えた。なんだか自分だけこの世にひとりぼっちになってしまったみたいで、とても苦しいしとても悲しい気がする。こういう発作的にやってくるのは、いったいどうしたらいいんだろう。恋人連れ込み禁止とかっていうルールを作れば良いのかな。でも俺ももし舞い上がって雄大に紹介したくなったら?連れてこられなくなってしまうから、それはそれでちょっとイヤかも。それにしても幼なじみかあ、いい関係だな。友情や恋愛と違って、ずっと隣にいてくれるような存在。いざというときに頼れる存在。俺は幼なじみいないからなあ、小さい頃は親の転勤が多かったせいで。ちょっとうらやましい。ちょっとじゃねえな、たくさんだ。


「別れたけど」

「駅前で名前連呼されて逃げ回ってたって聞いたよ、大変だったじゃん」

「……別にィ」


素直に面倒くさかった、大変だった、って言ったらよかったのかな。そうしたらなにか変わる?こいつ面倒くさいって思われていないかな。ちらりと小鳥遊さんをみると、にっこり笑ってこちらに手を振ってくれた。うっ、笑顔も素敵だ。一目惚れなんかあり得ないって発言、訂正します。一目惚れって案外、あるのかもしれない。

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