第16話

『良い生き物』とはなんなのか。以前も言っていた。

「疲れたでしょ?僕の部屋、行こう」

ヒューはエルに手を引かれて部屋に入る。食事も水浴びも終えてベッドに入った。エルのベッドは少し広く作られているようだが、ヒューには少し窮屈だ。エルにくっつかないように体を離す。中々骨が折れた。

「エル。良い生き物とは、なんだ?」

「んぇ?」

気になっていたことをエルに問う。エルは半分夢の中にいたようで、涎を垂らしながら答えてくれた。

「えとね、僕達の、先々代の王様がね、人間と出会ったお話があるんだ。倒れていた人間を助けてもてなしたらね、その人間は、人間の国の王様で…助けたお礼にって、建築技術や林檎を育てる方法なんかを教えてくれたんだ。エルフにすごく良くしてくれて、だから、人間は良い生き物なんだよ。エルフはね、みんな、信じてるんだ。人間は、良い生き物って」

エルはふわりと花開くように笑う。数百年程前の話で、この城も人間が設計したものだそうだ。エルフに良くしてくれた。それだけで人間は良い生き物とされているらしい。

なんだか腑に落ちなかった。

「助けた礼なら、普通のことじゃないか?それに、人間の国の王なら…」

人間の国の王ならあの男の、エルフを慰み者にしようとした男の先祖ということになる。

エルは眠たそうに、それでも懸命にヒューの話に耳を傾けている。きっと王としての職務が重責なのだろう。エルフの国に来てからのエルは疲れているように見えた。ヒューは言葉を切ってエルの髪を撫でる。エルは嬉しそうに笑って目を閉じ、そのまま寝息を立て始めた。

責務を全うしようとがんばっているエルに、『良い生き物』があの男と血の繋がりがあると伝えるのは酷だ。そして、人間は全てが『良い生き物』ではない。

明日、側近の長である彼と話をしようと決意してヒューは目を閉じた。




翌日も小屋を直しに向かった。この日も側近の長が同行してくれた。道中、昨日のエルの話を伝える。やはり人間が『良い生き物』であるとエルフ達は信じていて、代々伝承されているようだ。

「先々代の王と人間の国の王は、唯一記録に残る人間との交流です。それに、彼の悲恋はおとぎ話のように受け継がれていますからね」

「悲恋、とは?」

「なぜあなたに教えなければならないのです?」

冷たく言い放たれてヒューはぐっと喉を鳴らす。しかし、めげてもいられない。せめて側近の彼には人間の本質を知ってもらいたい。これから先、エルフの国が攻められないとも限らない。

「知りたいんだ。エルフのことを。それに、人間を知ってほしい。今後また同じことが起こるかもしれない。人間は『良い生き物』ばかりではない」

「は…あなたも人間でしょう?」

「人間だからだ。間近で見てきた。人間は愚かで浅はかな生き物だ。悪いだけではないが、良いだけでもない」

小屋につき、ヒューはホスから降りて長に向き合った。人間のお前の言うことは信じられないと言わんばかりの表情だった長だが、ヒューから視線を外さない。拒絶されているわけではないようだ。ヒューは話を続ける。

「エル…あなた方の王も、気づいていると思う。人間は良いものだけではない。良いものだと受け入れすぎては危険だ」

エルフは武器を持たず、簡単に騎士団の侵入を許した。制圧は簡単だった。誰も抵抗しなかったからだ。

襲われたことがないことだけではなかった。人間は良いものだという刷り込みが、侵略への対応を遅らせた。

「それは貴方を含めて、ですか」

「そうだ。俺は騎士団の人間だ。騎士団、だった。あなた方の国を襲った人間の仲間だ。今はあなた方の王から恩赦をいただいているだけだ。俺を信じなくてもいい。ただ、伝承に付け加えてほしい」

人間は良いものばかりではないこと、襲われたら迷わず逃げること。エルにも伝えたが、戦いに不慣れなエルフは向かい打つよりも散り散りに逃げて生存率をあげたほうがいい。一人でも多くエルフがいれば復興も早く進む。

呪い師は女性のエルフからここまでの道のりを聞いたと言っていた。道がわかれば人間はここに侵略に来れる。実際犠牲は出たものの、騎士団はエルフの国に辿り着いた。そしてその女性のエルフは呪い師の最初の犠牲者となった。

「…時々、エルフの国から出ていくエルフがいます。閉鎖的な国に耐えられないようです。私には理解できませんが…そんなエルフが、呪い師に食われたのですね」

長は青い顔で近くの丸太に腰掛けた。平静を装ってはいるが、立っていられないほどのショックを受けているようだ。

「良い生き物とされている人間の王だが…今回エルフの国を侵略した王は恐らく血族だ。代が変わるにつれて、良い生き物としての何かが欠落したのかもしれない」

人間は良い生き物と信じて疑わないエルフが心配だ。何よりもエルが不憫だと思った。良い生き物ばかりではないとエルは知っている。良い生き物だと思っているエルフとの板挟みになってしまっているような気がしてならない。

ヒューに石を投げるエルフがいてもおかしくないと思うのだが、エルのそばにいる側近以外は付かず離れずの距離にいる。目が合うと笑いかけてくれる者もいる。エルが連れてきた人間というだけではない何かをヒューは肌で感じていた。

「さっきあなたは唯一記録に残る人間との交流と言った。なぜ人間と交流を持たなかったのですか」

「………人間の王が、エルフの国を閉じるようにと進言したからです」

答えてもらえないかと思ったが、長は答えてくれた。建築技術や農作物の育て方を教えた当時の国王がなぜ閉じろと勧めたのか。ただその理由は答えてはくれなかった。彼も知らないようだ。

エルフに対して、その容姿から性的な欲求を抱くものがいるのも不思議はない。しかしそれだけではなかった。呪い師のように魔力を狙う人間もいる。きっとそれらから守るために国を閉じるように伝えたのではないか。

もしかしたら、その頃の人間の国の内部でも様々な思惑が渦巻いていたのかもしれない。人間は良い生き物ばかりではない。王が良い生き物だったとしても、側近ひいては周りの人間が、良い生き物だけではなかったかもしれない。

「記録になくともそれ以前に、人間に襲われたことがあるのではないでしょうか。人間に限らず魔族もエルフを狙ってくる。身を守るために国を閉じたのではないですか。国を囲む谷も霧の小川も、エルフを守るように存在しています」

まるで外部を遮断するかのように。長は顎に手を当てて考え込んでいる。

エルフの国を守る霧や谷が、先天的なものか後天的なものかはわからない。ただ、身を守るようにこの場に国を発展させてきたエルフには過去、何かがあったのではないか。エルフは他を風の力で圧するよりも身を守り静に暮らすことを選んだのではないだろうか。

エルの大切な国だ。この優しく美しいエルフの国を守り続けてほしい。そのためにも、エルフには人間を知ってほしい。

ヒューはナタに手をかけた。小屋の修繕を進める。その日長がそれ以上口を開くことはなかった。ヒューは黙って修理を続け、日が暮れる頃にエルフの国へ戻った。

その日もルフは来なかった。




長と話をした日の夜、一つのベッドの中でエルに声を掛ける。この時間だけがエルとヒューが話ができる時間だ。

「今日、以前訪れた人間の王の話を聞いた。なぜ国を閉じたのか…あの、側近の、長の人だ」

「そっきんのちょう?あ、ル…」

「待ってくれ。名前は言わないでくれ。本人から聞く。あの、一番怖い人だ」

言ってからヒューはしまったと思った。よりにもよって怖い人とはなんという言い草か。エルは声をあげて笑った。

「ふひっ!ふへへへへぇっ!こ、怖い、人っ…んふふふっわかる、怖いよね、んぶふぅっ」

久しぶりにエルの大笑いを見た気がする。相変わらず、美しい顔に似合わず笑い方が豪快というか、可愛げがない。

「あの人と、話をしたんだ。人間は良い生き物だけじゃない、と。余計なことかと思ったが、今後人間に襲われた時のために」

笑いすぎて泣いたエルは涙を拭いながら頷いた。その目は真剣だった。エルはこの国の王として、次の襲撃を警戒している。

「うん。エルフの国を回りながら、みんなに声をかけてる。ヒューが、言ってたでしょ?エルフは逃げたほうがいいって」

「あぁ。それがいいと思う。あの人にも伝えた。それから、余計なことなことだとは思うが、なぜ以前訪れた人間の王はエルフの国を閉じるように命じたのか気になった。それ以前に人間と交流がなかったことも…理由を知っているか?」

エルは上半身を起こしてヒューを見た。ヒューもベッドの上に腰掛けてエルに向き合う。

「これだけの建築技術を提供して物資を送り込んだ人間の王が、なぜ国を閉じるように言ったのか。助けてもらっただけでそこまでするものなのか?それ以前に交流がなかったのはなぜなのか」

この城は他の建物に比べてしっかりとした作りだが、この国にないはない資材も使って作られている。なんなら少し異質なほど、この城の存在は際立っている。人間の設計であると言うのも疑いはないし、きっと当時の人間もここに建築の手伝いに来たのではないか。それだけの交流があった人間の国と、なぜ国交を絶ってしまったのか。

エルはその答えをおしえてくれた。

「あのね、エルフの国が他の国と交流しなくなったのは、人間の王に言われたからなんだけど…あのね、先々代の王の手記があるんだ。僕、それが大好きでね、エルフのみんなも読んでるよ。手記にね、森の外に倒れていた人間の王を介抱したんだって書かれててね。それが物語の始まりなんだけど…」

狩りに来た人間の王は森で迷い、霧の小川で倒れているところを先々代の王が見つけた。先々代のエルフの王は人間の王を介抱し、森の外まで連れ出した。恐らく従者たちはもちろん、人間の王もとてもエルフに感謝し、エルフの国に物資を送った。人間の王は何度も足を運び、エルフの王もそれを迎え入れた。人間の国とエルフの国は友好関係にあった。

「それでね、先々代の王は人間の王に恋をするの。優しくて親切な人間の王のこと、大好きになるんだ。とても信頼してるの。人間の王の仲間の人達もね、みんな優しくて、親切で。だから人間は『良い生き物』なんだ。だって先々代の王の愛した人だから。そんな人間の王がね、危険だから国を閉じたほうがいいって言ったんだって。エルフを守るために。そのときはね、エルフの国がオークに襲われたみたい。エルフ以外の者を迎え入れることをやめたって、書いてあったよ」

エルはまるで自分のことのように楽しそうに語る。仲間であり王である先々代の王が愛した人を、エルフ達はその同族までもを『良い生き物』と認識して過ごしてきた。その頃にこの国に来た人間達は確かに『良い生き物』だったのだろう。だがそれは人間のほんの一部に過ぎない。

恐らくそれまでは小川の霧を晴らしたりして人間を迎え入れていたのだろう。そこを別の外敵に突かれてしまった。

「オークに襲われたことで、他を遮断するようになったのか…そこで国交を絶って会えなくなったから、悲恋、なんだな。エルフの女王と、人間の国の王との」

「ん?エルフの王は男だよ?それに、先々代の王が亡くなったのは、国交を絶ったせいじゃないんだ」

ヒューは話をしていて恥ずかしくて仕方がなかった。どうにも色恋の話は身に覚えがなさすぎていたたまれなくなる。

その上先々代の王とは同性同士だったらしい。同性同士の恋となるとますます居住まいが悪くなる。身近にそんな恋人同士がいなかったので、想像がつかないからだ。

「先々代の王と人間の王は交流を絶ったあとも付き合いがあったんだって。時々お互い遊びに来たり遊びに行ったりしてたそうだよ。人間の技術を教えてもらったりしてたみたい。人間の王が亡くなってすぐに先々代の王も亡くなったんだ。人間は寿命が短いから…僕達は、先々代が亡くなった理由を、愛する人間の王に先立たれたからだと思ってた。でも違ったんだ。リゴさん達の話を聞いてわかったよ。手記にね、彼にはもう大切な人がいるって書いてあって。人間の国の王には、オクサンとコドモがいたんだって。ずっと、わからなかった。人間は、僕たちと少し違うから…」

エルフはパートナーとは強く結びついても家族という概念がない。人間はパートナーはもとより、産まれた子供と家族として過ごす。エルフには馴染みのないない絆だ。手記の奥さんと子供の意味がわからなかったらしい。人間の王には妻も子供もいた。ただ寿命が二人を引き裂いたというだけの悲恋ではなかった。

「エルフはね、辛いことがあると体に出ちゃうんだ。強い怒りでダークエルフに。強い悲しみで命を落としてしまうこともある。人間の王が亡くなる前からずっと、先々代は体調が良くなかったみたい。寝込むようになって、どんどん動けなくなって、オクサンとコドモが羨ましいって書かれるようになって…最後に人間の王の訃報が記されて、手記は終わってるんだ」

人間の国の王が亡くなったと同時期に命を落としたエルフの王だが、人間の王の死はきっかけに過ぎなかったようだ。その前からエルフの王は洞窟でのエルのようになっていたのだろう。

「動けなくなった先々代の王だけど、その体を叱咤して人間の国の王に会いに行くの。彼が笑ってくれるだけで、体の辛さなんてどこかに行っちゃうんだって」

エルフの王は深く人間の王を愛していた。

エルがそっと、ヒューの腹の傷跡を撫でた。

「まだ、痛い?」

「いや。もう、痛みも何も無い」

多少皮膚がひきつれる程度で体はなんともない。エルは辛そうな顔で傷を見ている。

「大切な人がいなくなると、エルフは…」

今にも泣きそうなエルの頬を撫でると、エルは少し微笑んだ。その日はそのまま、眠りについた。



それから、数日。ヒューは長と共に小屋の修復に勤しんだ。エルフの国に戻ってからはエルと共に寝食を共にする。

『本当にルフは来るのですか?』

エルは何も言わなかったが、長は訝しげにヒューに問う。確かに時間がかかっている。

小屋の修復はほぼ済んだ。ルフはまだ来ていない。



その日も小屋の修復のため、長と共に霧の小川を超えてしばらく森をホスで駆けていた時だった。

「ぐっ…体、が…」

風に乗って進んでいた長が体勢を崩した。体を抑えて地面に崩折れる。ヒューはその体を起こした。ヒューには長が苦しむ理由が分かった。

「ルフがいる」

ここから小屋まで、500m程。先日エルと宿営地を訪れた時にエルが反応した時と同じくらいの距離だ。

「あなたは小川で待っていてください!」

ヒュー長を抱きかかえて離れた場所に降ろし、ホスを駆けて小屋を目指した。ここ数日通い慣れた道に、ホスは淀みなく足を運んでいく。小屋の前に小さな人影が二つあった。

「ルフ、チル!無事だったか!」

思わず大きな声で二人を呼んだ。時間がかかっていて、ヒューも心配だった。

二人は小綺麗な格好でそこにいた。

「ヒューさん!良かった、お会いできた…!」

「声でけぇよ!つか、エルフいただろ。誰?」

別れた時と変わらぬ二人にヒューは肩の力が抜けた。幼い二人の旅路は過酷だろうと思っていた。色艶の良い二人に疑問が湧く。

「二人旅は、大変だった、か…?」

「少し。でも、途中で寄った街の人達が良くしてくれて…ヒューさんとエルさんも来ったっておっしゃってました」

「コイツの王様からの貢物がすげー高いもんだったらしくて、すげー金になったんだよな」

「ねっ!あんなものもういらないから、お金になってよかったよ。たくさんご飯も食べさせてもらって、ふかふかのお布団とお花の浮いたお風呂と…楽しかったです」

どうやらリゴのいる街に立ち寄ったようだ。だいぶ良い部屋に泊まらせてもらったらしい。心なしか、クリの毛艶もよい。どれだけの金を積んでもてなされたのだろうか。

「いや…無事について良かった。近くにいるのはエルの側近の、一番偉い人だ」

「あぁ、ルエ?そうか、エルフの力がないとここに来るのきついもんな。アイツ、怖ぇっしょ?口うるせぇし。でも人参やっとけば大人しくなっから…これ、アンタが直したの?」

ヒューはショックだった。親交を深めて本人から聞こうと思っていたのにあっさり名前を教えられてしまった。

そんなことはつゆ知らないルフは小屋を眺めている。

「あぁ。あとは少し調整をしたら終わりだ」

扉がギシギシと鳴るので蝶番を修繕し、テーブルに空いている穴を塞いだら終わりだ。ルフは扉を開けた。

「荷物を運び込むといい。不便なところは言ってくれ。俺のできる範囲でだが、修繕する」

「…ありがとう」

ルフがぽつりと呟いた。ヒューは空耳かと思った。

「僕からも、ありがとうございます。ヒューさんのお陰で僕達、ここまで来れました。やっぱりルフは、故郷の近くにいたいみたいで…あれで、すごく喜んでるんですよ」

「おい。何喋ってんだよ」

「ないしょー。すごいね、もっとボロボロだったんでしょ?嬉しいね。ここで、一緒にいられるね」

チルはこっそりと教えてくれた。背中を向けていたルフが振り返り、二人はくっつきあって小屋の中に荷物を運び入れ始める。

この短期間で、二人は増々仲が良くなったようだ。仲睦まじくしている。見ているこちらが恥ずかしくなるくらいだ。仲が良いのにわざとらしさもない。

まるで長年連れ添ったかのような二人は俗に言う恋人同士なのだろう。エルフと人間で、同性同士の恋人同士だ。

寿命が違う彼らはこれからどうしていくのだろう。

幸せそうな彼らに今水を指すようなことを聞くべきではない。それにしてもぴったりと寄り添う二人に若干気まずくなりつつ、ヒューは大工仕事に集中したのだった。




側近の長、ルエを待たせているので、ルフが来たその日は早々に小屋を立ち去った。小川の近くでルエはヒューを待っていてくれていた。

「ルフは、本当に来たのですか?」

「はい。あなたはルエと、言うのですね。ルフから聞きました」

ルエは目を大きく開いた。何度か目を瞬かさせてから首を傾げる。

「あの子…なんて、言ってました?」

「あなたは人参がお好きだと」

「他には?」

「え?あの…怖いけど、人参を渡せば大人しくなる、と…あと口うるさい、とも…」

「っ…ははっ。間違いなく、あの子ですね」

ルエは片手で顔を覆って笑った。笑うルエの目からは涙が溢れ出て止まらなかった。目鼻立ちのはっきりとしたエルフは、涙を流す姿すら美しい。あまり美醜に興味もこだわりもないヒューでも見惚れてしまう。彼らを手元に置きたいと願う輩がいるのも頷ける。

ルエにとってルフは特別な存在だったのかもしれない。

ヒューはルエが落ち着くまで、静かに傍にいた。



エルフの国に戻りルフの話を伝えるとエルも涙を流して喜んだ。他のエルフ達も口々に良かった、本当に帰ってきたと喜んでいた。やはりエルフはとても仲間想いだ。ルフのことを、まるで自分の子供のことのように案じていた。

「この人…ヒューがルフとチルの住処を直し、暮らしていけるようにしました。彼とエルの話だと、ルフは人間の子供と同居しています。成人とはいえまだルフは幼い。遠巻きながら支えてあげましょう」

ルエの言葉にエルフ達は喜んで承諾していた。

ルフとチルの住処の修繕。ヒューの仕事は終わったと言えるだろう。

「良かった。これで、俺の役目は終わりだ」

ヒューがエルに笑いかけると、エルはさっと顔色を変えた。

「どうして、そんな言い方…終わって、ないよ、ヒューは…」

「何が終わったのです。あなたはまだやることがありますよ。この人間、中々大工としての腕が立ちます。力もある。無駄に。そのあり余った肉体を、余すことなくこのエルフの国で使うのです。いいですね?」

ルエはエルフとヒューとエルに説いた。エルは目を丸くしてルエを見る。

「ヒュー、ここにいて、いいの?あんなに嫌そうだったのに?」

「嫌ですけど。まぁ、仕方がありません。それに、ルフと会えるのは今この国で、彼だけです。どうかしばらく、この国で尽力してもらえませんか」

ルエに頼まれて、ヒューはぐっと拳を握った。命を懸けること以外で役目を与えられるなど、ヒューには初めてのことだった。

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