第11話

sideエル




エルはヒューと共に、洞窟を出て初めて訪れた街にやってきた。ここは村ではなく、街だそうだ。村よりも人の数も規模も大きい。エルフの国に通じる森に入る前に、もう少し準備が必要だとヒューは言っていた。

『ここなら林檎が手に入る』

ヒューはエルの好物を手に入れようとしてくれている。気遣ってくれることが嬉しかった。それに、ここで食べた林檎は絶品だった。また食べられる。エルはとても嬉しかった。




ヒューの村で、エルフの国を襲った騎士団の男に出くわした。

エルフの国を襲った騎士団は何人かいた。その中でもあの男は果樹園の主のカジュとエルフの王を殺した。少なくとも二人だ。他に誰を傷つけたのか、今となってはわからない。

エルを組み伏せる男が恐ろしく、憎かった。ヒューが来てくれなかったらあの場でエルは蹂躙されていただろう。あの男はエルを蹂躙し、その姿をヒューに見せることが目的だったようだ。

先々代の王の手記から、人間は良いものだと思っていた。しかし、それだけではなかった。実際に見なければわからなかった。エルを含め、エルフの民はみな人間は良い生き物だと思っていた。

ヒューに武器を向けられて、エルの頭は真っ白になった。真っ白になったあと、体中の血液が沸騰したかのように感じた。あれが怒りなのだろう。あの男をバラバラに引き裂いてやりたいと思った。思い出すと今も怒りが吹き出そうになるし、バラバラにしてやりたいと思う。

しかし、ヒューが止めてくれた。あのまま激情に身を任せていたら、きっとダークエルフになってしまっていた。

ルフはあの激情にのまれた。ルフは無理に体を暴かれるあの恐怖に晒された。怒り、悲しみ、恐怖。エルもきっと耐えられないだろう。その上傍にいたチルは、その行為を強要され続けていたらしい。ルフの怒りは自分がされた以上のものだっただろう。少し気性の荒い所もあったが、仲間想いで優しい子だった。

もしもチルがヒューだったら。強いヒューは蹂躙されることなんてないだろうけれど、もしも同じ立場だったら、エルはダークエルフになっただろう。闇の力を得てでもヒューを守ろうとした。

それから姿を見せた少女にも驚いた。少女は騎士団の男を蹴り飛ばした。エルを睨んで怒っていた。話の内容の全てを理解できたわけではないが、なんとなくわかった。

少女はヒューのことが好きで、そばにいるエルが気に入らない。ヒューからエルを引き離すために男に協力していた。少女はエルフのことを勘違いしていたようだ。きっとエルフにヒューを取られてしまうと思ったのだろう。好きな人がそんな存在と一緒にいたら、慌てて無謀なことをしてしまうかもしれない。

彼女はヒューのことが好きだから、エルを、どんな目にあうか知っていながら男に協力した。

エルはとても怖かった。男に襲われて力でねじ伏せられて、逃げられなかった。エルはそうされても仕方のない存在だと思われていた。一体人間は、エルフをなんだと思っているのだろう。

そう思った時、ヒューが彼女を怒鳴りつけた。彼女を許さないと言ってくれた。涙を流して走り去る彼女は可哀想だったが、ホッとしたのも事実だった。

ヒューは胸の中で泣かせてくれた。エルが大丈夫ではないのだと見抜いていた。怒って悲しんでいいのだと言ってくれた。

次期エルフの国の王として、知らぬうちにエルは気を張り詰めていた。普段は何かあればエルフのみんなが手助けをしてくれる。今はエル一人で、エルフの国の有事と向き合わなければならない。

そんなエルの心の内を、ヒューは静かに受け止めてくれた。泣き叫ぶエルを優しく包んでくれた。

ヒューは優しい人間だ。他の人間とは違う。とても心優しい人間だ。

だからこそ、エルは時々不安になる。ヒューは王に対峙してからどこかぼんやりとしている。騎士団の男にも少女にも、怒りを見せたあとは何か諦めてしまったかのような顔を向けていた。

いつかふらりと、ヒューがどこかへ行ってしまうような気がする。どこか、エルの手の届かない、遠いところに。



街につき、エルとヒューはローブを纏って歩いた。

街に来るまでも、今も、たくさんヒューと話をした。口数の少ないヒューだが、エルの問いにはきちんと答えてくれる。ますます人間の言葉を覚えて、ヒューと会話ができるようになった。

時々どこか遠くを見つめるヒューを引き止めるように、エルはヒューに声をかけた。

「林檎、楽しみだなぁ。どうしてあの時、この街にきたの?」

「あの時…洞窟を出た時か。エルが元気がなくて、医者にみてもらうつもりだった」

「いしゃ?」

「あー…病気を、なおす人だ。病気…わかるか?かぜ…くしゃみ、鼻水、とか、腹が痛い、とか」

「熱が出たりするやつ?そうか、ここは病院があるんだね」

エルは合点がいった。エルフの国には医術に詳しかったり、薬草に詳しい者がいた。体調が悪い時は彼等が診察をして薬草を煎じてくれる。その何人かのエルフが集まって病院を運営していた。人間の世界にも同じものがあるようだ。

「びょう、いん?…エルフも風邪をひくのか?」

「かぜ、かな?エルフはね、感冒って言ってるよ。寒くなるとね、くしゅんって出るよ。熱も、鼻水もね。エルフ同士で移し合っちゃったりしてね、大変なの」

「そうか…ふ…人間と同じだな」

ヒューは笑った。ヒューが笑うと、エルは嬉しくなる。

「ふへへ」

ヒューに笑いかけると、ヒューは少し首を傾げた。

「そんなに、面白かったか?」

「えっとね、ヒューが、笑ったから。嬉しくなっちゃった」

「そうか。同じだな」

ヒューは少し笑ってエルの頭をポンポンと叩いた。

同じ、とは一体どういうことだろう。ヒューも、エルが笑うと嬉しいのだろうか。

エルは、ぼんやりしていることが増えたヒューが笑ってくれることが嬉しい。それだけのはずなのに、なぜかエルの顔は熱くなった。思わず両頬を隠したエルは突然聞こえた怒鳴り声に飛び上がってしまう。

「おい!てめぇふざけんなよ!」

「うるせぇな、怒鳴ってんじゃねぇよ!」

近くの建物から出てきた男が2人、大きな声を出し合っている。エルがヒューのローブの下に潜り込むと、ヒューがエルの体を引き寄せる。

「大きな街だ。色んな人間がいる」

ヒューはエルのフードを被せ直し、エルをヒューのローブの中にしまったまま歩き出した。ヒューの力強い腕を背中に感じながら、エルはヒューの歩幅に合わせて歩く。ヒューもエルに合わせて歩いている。

怒鳴り声は後ろに遠ざかっていった。エルはヒューに身を寄せた。

(ヒューがいれば、大丈夫)

ヒューがいれば怖いことは少なくなる。

ヒューのローブの影から周りを見ていると、丸く赤い色が目に飛び込んできた。

「林檎だ!」

エルがヒューに指さして伝えると、女性が声をかけてきた。

「いらっしゃい。あら、あの時のイケメンじゃないの!」

エルがローブから顔を出すと、女性はにっこりと笑った。

「可愛い子ちゃんも一緒だね。そうか。アンタ達、まだ二人でいたんだね。なるほどねぇ…ほら、どうぞ」

女性はエルに林檎を差し出してくれた。エルがヒューを見上げると、ヒューが頷いたので、エルは林檎にかぶりついた。やはり甘くて美味しい。洞窟を出てすぐにやってきたこの街で食べたこの林檎の味は忘れられなかった。

「美味しいかい?うちの娘婿が作ってる林檎でねぇ。うちの自慢の一品だよ。ところでアンタ達、今夜はこの街に泊まるのかい?気をつけなよ。エルフを狙ってる人間はまだいるからね」

エルはびくりと体を震わせた。ヒューの纏う空気がひりついていく。ヒューは一段低い声で女性に問いかける。

「どういうことだ?」

「だいぶ前に城から、エルフを捕まえたら金一封って知らせがあってね。前にアンタ達が来た頃だよ。捕まえ損ねたエルフが逃げてる、ってね。この街でエルフを見たって人間もいてね。まだ探してるやつがいるのさ」

「アンタもその一人か?」

「まさか!だったらわざわざ言うもんか。王がエルフを狙ってる理由なんざ、言われなくてもわかる。あの王の男女問わない色好きは有名だからね。アタシはね、娘がいるんだ。もしも娘がエルフと同じ扱いを受けたら、腸が煮えくり返る。アンタみたいな子供がそんな仕打ちを受けるなんて、見過ごせないよ」

女性は最後、心底嫌そうに吐き捨てた。人間は、自国の王だからといってただ心酔することはしないようだ。全ては理解できなかったが、彼女はエル達に警告していて、自国の王に憤っている。

「もしも宿を探すならこの裏の宿屋に行きな。リゴさんに紹介してもらったって言えばいいよ。うちの娘のやってる宿だ。他より安全だよ」

「そんなこと、信じられない」

「信じなくてもいいさ。アンタその筋肉だ。強いんだろ?いい体しちゃってさぁ。うちの娘はともかく、手伝いの娘婿はアンタよりヒョロヒョロだよ。なんかあってもアンタが守ってやれるだろ。どうだい?」

「………」

ヒューは押し黙った。何か考え込んでいるようだ。間髪入れず、女性はヒューに語りかける。

「ほらほら、林檎多めにサービスしとくから!あとね、人参もうちで買いな?この前別の所で買ってたろ!出発に合わせてまとめといて、宿まで届けてあげるよ。どうだい?ん?」

「…わかった。明日出発する。それまでにまとめて…」

「毎度ありぃ〜!あとね、この木イチゴなんかも美味いよ!一緒にどう?んっ?」

「……包んでおいてくれ」

ヒューはため息混じりに頷いた。女性はとても嬉しそうにしている。宿の道を教えてもらい、ヒューは女性に礼を言って歩き出す。

「ゆっくり休みな。娘の宿なら、安全だよ」

手を振る女性に、エルも手を振った。女性はエルフの扱われ方に怒っていた。あんな考えの人間もいる。みんながみんな、エルフを欲のはけ口として見ているわけではないらしい。エルはヒューにしがみついて歩いた。

「大丈夫だ。何かあれば、俺が守る」

力強いヒューの言葉にエルは頷く。ヒューがいれば怖いことはない。きっと守ってくれる。ヒューの傍にいると、心が安らいで落ち着いた。エルは深呼吸をして、ヒューから離れなかった。

宿につくと、お腹の大きな女性が出迎えてくれた。

「宿泊希望のお客様かしら?」

「あぁ。リゴさんの紹介で」

「お母さんの?あらあら、いらっしゃい!今日はどの部屋でも空いてますよぉ〜イケメンと美人カップル様、ご来店〜!」

女性は大きなお腹を支えながらカウンターに入っていった。賑やかな性格が良く似ている。エルは思わず笑ってしまった。

「美人の笑顔は特別ね〜こんな可愛い子捕まえて!やるわね、イケメン♡どんな部屋にする?もちろんダブル?」

「空いていればどこでもいい」

「オーケー、ダブルのお部屋、ご案内しまぁ〜す。こちらへどうぞぉ〜ここね、裏通りにあるからお客様が少ないのよ。誠心誠意接客してるんだけどねぇ…リピーターは多いけど新規のお客様が少なくて。お母さんに営業お願いしてるのよね。引っかかってくれてありがと♡」

女性が先を歩き、ヒューと二人で後についてあるいた。ヒューはあーとかうーとか返事なのかわからないものを返している。早口で全てを理解できなかったが、敵意は感じられず、友好的だ。明るい空気にエルの気持ちも少し上向く。

案内された部屋は綺麗に整えられていた。

「食事は後で部屋に持ってくるわね。人目につきたくないでしょ?」

女性にヒューは頷いた。やはりこの女性も、エルをエルフだとわかって親切にしてくれているようだ。女性が部屋のカーテンを閉めていく。

「詳しいことはわからないけど、追いかけ回されて疲れたでしょう。ゆっくり休んでね。じゃ、ごゆっくりぃ〜」

エルも女性に頷いた。女性は微笑んで、部屋から出ていった。

エルはヒューのローブから顔を出して周りを見渡す。ぼとりと音がして顔を向けると、ヒューが荷物を床に置いた音だった。置いた、というよりは落としたようだ。ヒューを見上げると、少し青い顔をしている。

「…すまん。部屋を、間違えた。変えてもらおう」

「えっ、なんで?」

ヒューが部屋を出ようとするのでエルは引き止めた。綺麗な部屋で、ベッドも清潔に整えられている。この部屋で十分ではないだろうか。大きなベッドはヒューとエルが寝転んでも余裕がありそうだ。体の大きなヒューには丁度良いだろう。

ヒューが首を横に振る。

「ダブルは、そうだった。忘れていた。ベッドが一つしかない。俺と一つのベッドは、嫌だろう」

「嫌じゃないよ?僕、ヒューと寝たほうが安心するよ」

人気のない室内に、エルはヒューのローブから出て室内を見て回った。室内で着られる服もある。広くはないが落ち着いた空間に、エルは室内着を持ってヒューの元に戻った。

「はい、着替え」

エルが服を手渡すと、ヒューは少し固まってから手に取った。




着替えも終わり、エルはベッドに横たわり、ヒューはベッドの端に腰掛ける。エルはごろごろと転がったり体を伸ばしたり、ベッドを満喫していた。エルを眺めているヒューに、気になっていたことを問う。

「さっきの人、お腹が大きかったのは、赤ちゃんがいるから?」

「たぶん、そうだと思う」

「そっかぁ…エルフもね、女の人が産むよ。お腹の中で育てて出てくるの…ふふ。やっぱりエルフと人間は似てるね」

エルは話していて少し悲しくなった。エルフと人間はこんなに似ている。知らなかった。ただ人間は『良い生き物だ』という知識しかなかった。

こんなに似ているのに、どうしてあんなに扱いが違うんだろう。

「エルの、母親は…」

ヒューは言葉を切った。ヒューは黙ったエルに、何か話そうとしてくれた。エルは努めて明るくヒューの問いに答える。

「ははおや…産んだエルフの、こと?あの時、どうなったかわからないけれど…いるよ。産ませたエルフはね、20年くらい前に亡くなっちゃったけど。産ませたエルフの子は、僕で5人目かな?産んだエルフは僕が初めてだったんだけど…」

「う、うんだエルフと、うませた、エルフ?その…とても、他人行儀なんだな…なにか、呼び方はないのか?」

「たにんぎょーぎ?他の呼び方はない、かな?パートナーはね、もっと深い関係になるんだけど…」

「ぱーとなー?」

ヒューは首を傾げた。会話はできているが、理解できないといった顔だ。エルも不思議に思った。こんなに驚くということは、エルフと人間とでは出産や子供に対して何か違いがあるのかもしれない。エルはヒューにエルフの子供達について話した。

エルフの子供は子供が欲しい人同士で性行為をして産まれる。産まれた子供は一箇所に集められて子供を見る仕事をしているエルフが子供の世話をする。

ヒューは目を丸くしていた。

「人間とは、違うんだな」

「どう、違うの?」

ヒューの説明はこうだった。人間は夫婦という関係になり、子供を産み、二人で育てる。夫婦になる前に子供ができる場合もあるが、そこの順番の後先はあまり重要ではない。男女は父親と母親という存在となり、子供を育てていくそうだ。

「子供には親というものが存在する。親は子供を、子供は親を、大切にするのが普通、だな」

「へぇえ〜エルフとは全然違うんだね。ヒューの、お父さんとお母さんは?」

「俺に親はいない。いや、産んだ人と産ませた…母親と父親はいるんだが、どこにいるのか、生きているのか、知らない。俺を祖母が育ててくれた。そういう人間はあまり多くない」

ヒューは淡々と語る。母親と父親、家族という名称のある存在がヒューにはいないそうだ。ヒューの言う通り、そんな人間はそう多くないのだろう。

エルがどう声をかけようか迷っていると、扉がノックされた。

エルはローブを羽織り、フードを目深にかぶる。ヒューが扉を開けると宿屋の女性が立っていた。

「お夕飯どうぞ〜」

宿屋の女性が食事をワゴンに乗せて入ってきた。木のワゴンのタイヤが床とぶつかり合ってゴトゴト音を立てる。テーブルに並べられたのは茶色のなにかと、野菜が盛られた皿と、色のついた水と、これまた茶色のなにかだった。あまり食を必要としないエルフだが、テーブルから立ち昇る良い匂いに鼻を鳴らしてしまう。

「ふふっ…たくさん食べてね〜おかわりは呼びつけてちょうだい」

「あの、お母さん、なる、ですか?」

女性の笑顔にエルは声をかけた。エルをエルフだと知っていて柔らかい笑顔を向けてくれる彼女と話がしたいとエルは思った。女性はお腹を撫でながら答えてくれた。

「そうよ〜もうすぐ産まれるんですって。ねぇ、エルフはどう生まれるの?木の根から生えるって本当!?」

「きの、ね?」

「木の、下の方だな。そこから生えるのかと聞いている…何だ、その話は」

「おとぎ話でね、エルフは月の光を浴びた木の根から生えるっていうのがあるのよ。うそ、イケメンさんたら!聞いたことないの?」

「聞いたことない。エルフは、エルフから産まれるらしい」

「うん。人間と、同じ、だよ」

エルはわからないところはヒューに聞きながら、女性とエルフの誕生や子供について話をした。女性は頷きながら真剣に話を聞いていた。

エルフは集団で子育てをする。人間のような親子という考えがあまりない。言うなればエルフはみんなが親でみんなが子供だ。

女性は話を聞き終えて笑った。

「いいわねぇ。素敵。私、エルフの人達の子育て方法、好きだわ」

エルは頬が熱くなった。褒められたようで、好きと言われて嬉しくなる。

「親と子供が縛られないって素敵よ。私は母さんが大好きだし、この子も愛しているけれど…『人間だから』で受け入れて育ててくれたら、私はその方がいいわ」

女性はお腹を撫でながら話した。その表情はとても柔らかくて慈愛に満ちている。

「ごめんなさいね、長居しちゃった!まだ温かいから、ゆっくり召し上がってね」

女性は笑って、エルやヒューの返事を待たずに颯爽と部屋から出ていった。

エルはテーブルの食べ物に鼻を寄せて匂いをかぐ。

「んんぅ…いいにおい…これ、何かなぁ?」

「それはパンだな。こっちはスープだ。これは、なにかの…にく、だな。苦手だろう」

「うん。にくは、ヒューにあげる」

「こら。きちんと椅子に座れ」

エルはたったまま野菜をつまむ。新鮮でとても美味しかった。ヒューに叱られて椅子に腰掛ける。肉に手を付けないヒューに、食べるてほしいと頼んだ。

肉はヒューの好物のようだ。エルが怯えてしまったあの日から、ヒューはエルの前では干し肉以外の肉を口にしなくなった。エルは肉を食べないし肉を食べるという行為に少し怖くなるが、こうして肉が出てくるということは人間にとって肉食はごく普通のことなのだろう。エルが肉食をしないように強制することではない。エルも、林檎は綺麗だから食べては駄目だと言われたら困ってしまう。

ヒューは自分の分肉をぺろりと食べてしまい、エルの分の肉はじっくり味わって食べていた。

「『人間だから』で、受け入れる、か…」

サラダと言われる野菜に夢中になっていたエルは、ヒューの呟きを聞いた。ヒューはまたぼんやりと遠くを見ていた。

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