第2話
頭上から落ちてきた春。
優しくタレ目で儚い面影が頭に一瞬で焼きついた。薄桃色の花束とも相まって綺麗とはこういうことを言うのだろうなと感じた。こんなドラマのような完璧な出会い、今でも忘れるわけない。彼は腕いっぱいの花を抱えて甘い匂いを残して消えていった。呆然と立ち尽くす私の横を警察が花の足跡を追いながら走って行った。
一瞬の出来事で頭が追いつかなかった。彼が残していった地面にある花弁を掬いあげ、持ち帰った。その日は家に帰って疲れてそのまま玄関で寝てしまった。後日、その花を調べてみたらスイートピーという名の花だった。可愛くて可憐で私には似合わない花だった。
その後の私は彼の存在を忘れては思い出してを繰り返しながら夜の街を遊び歩いていた。今日もいつも通り街は汚くて煩くて心地よかった。
いつも通りゴミ袋をベッドにして寝てる人を横目で通り過ぎようとしたら、見覚えのある端正な顔立ちにサラサラな黒髪。気づいたら思わず声をかけてしまっていた。
「大丈夫ですか?」
その声に反応して開いた口からは酒の匂いとタバコの匂いに包まれていた。
「水持ってない?」
意外と図々しい反応に聞いた私が思わず、戸惑ってしまったが、とりあえず持っていた水を渡した。一気に減っていく水とごくごくと揺れる喉仏が絵になっていた。
水を飲み干した男はそのまま起き上がり私の手を引いて歩き出した。どこに行くかも分からないが彼の顔に見蕩れ、されるがままに連れていかれた。着いたところは隠れ家のようなバー。
中に入り、椅子に座ると今まで閉じていた口がようやく開き、男が話しかけてきた。
「この前下にいた子だよね?」
私は覚えていてくれてたことに驚いたと同時に僅かな嬉しさが込み上げてきた。
男はそのままタバコに火をつけた
女の子のような美形な顔にはそぐわない姿にまた惹かれた。
「私も花は好きだけど花泥棒で捕まるなんて、考えれない。すごい度胸ね」
私はこの前見た光景を見たまんま話した。
「花泥棒は罪にはならないよ」
私には言ってる意味がわからず頭にはハテナが浮かんでいた。その顔を見て、男はニコッと微笑んだ。私と彼の物語はここから始まったのだ。
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52Hzの声 孤独の鯨と迷える羊 鯨。 @yx_xmell
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