第8話 再びの再会

 よしくんは、しばらく、緑が丘に行きませんでした。

毎日通っていた大好きないっこのお店だったのに。

よしくんは、思いました。

これでは、47年前の落語会と同じことになる、と。

よしくんは、落語会の高座で演じるいっこに圧倒されて、楽屋に挨拶に行くこともしないで一人帰ってしまい、いっことそれっきりになってしまったのでした。

いっこは、楽屋で、よしくんの来てくれるのを待っていたのに。


日毎にいっこが恋しくなった、よしくんは、その夜に緑が丘に行きました。

サンロードを歩いて、いっこのお店の前にくると『カラオケスナック いっこ』の電光看板が点いていません。

しかし、お店の中の電灯は点いているようです。

よしくんは、お店のドアをゆっくり開けます。

 カラン、 カラーン。

 「いらっしゃいませ。よしくん…」

いっこママは、いつもみたいに酔っていません。

 「いっこ、 ごめんね。来なくて…」

いっこは、笑顔を作ると、

 「いっこ、 待っていたよ。 毎晩」

そう言って、いっこは、今夜用意していた鯛のあら煮を出してくれました。

いっこは、よしくんの為に毎晩料理を用意して待ってくれていたのでした。

よしくんは、言います。

 「外の電光看板が点いていなかったから、心配したよ」

いっこは、言います。

 「よしくんだけを待っていたのよ。 それで点けなかったの」

お互いに顔を見合わせると、泣きそうになりました。

しばらく、沈黙が続きました。

 「よしくん、 スーパームーン見る? 今夜は、スーパームーンなの」

いっこが、楽しそうに言いました。

よしくんは、いっこのおかげで気持ちを切り替えることが出来ました。

 「うん! 見たいよ!」

いっこは、

 「2階が住居になっているの、 窓から月を見ることが出来るよ!」

と、言うとよしくんを2階に案内してくれました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る