第5話 つぐない
よしくんは、慣れた感じでお店に入ります。
今夜も、よしくんの他にお客さんはいません。
すぐに、いっこママが、カウンターから出てきました。
よしくんの座る位置のカウンターには、おしぼりと水割りとナッツがすでに用意されて置いてあります。
「よしくん、 歌おうよ。 ねっ?」
いっこは、ほろ酔い加減で上機嫌です。
お店には、カウンター席の他に小さなテーブルが2つ設置されていて、その中央に小さなステージがあります。
ステージには、カラオケ映像のモニターとスタンドマイクがあり、天井には小さなミラーボールもあります。
楽しそうにステージに立ついっこが、マイクを持ちカラオケをスタートさせます。
よしくんは、考えていました。
新型コロナ前は、カラオケのお客さんが順番を争って歌っていたのではないかなぁと。
今は、よしくん一人のお客でもいっこは、ママとして一生懸命おもてなしをしてくれます。
カラオケの前奏が始まると同時に、ミラーボールが回転し、お店の中は、まるで星々の輝く宇宙のようです。
いっこママのスナック衣装の大きく開いた胸のビーズやラメがきらきらと反射します。
いっこは、若い頃、髪を長くしていて胸も大きくて可愛い女の子でしたが、今もグラマーで可愛い顔の熟女だと、よしくんはしみじみと思いました。
♪あい をー つぐなえばー わかれに なるからー♪
よしくんの好きなテレサ・テンの『つぐない』です。
間奏に入りました。
「よしくん、 この曲、 いっこの十八番なの」
いっこは、相当歌い込んでいるので上手です。
この曲は、寂しく悲しい歌詞なのに明るく歌ういっこに魅了されます。
よしくんも、力いっぱい拍手します。
「いっこママ! 最高! ウェーイッ! ヒューヒュウッ!」
お店が、活気付き良い感じです。
人通りの全く無い、静かなサンロード商店街ですが、窓の隙間から猫が店内を珍しそうに覗いているようでした。
いっこは、続けて『愛人』も歌い、夜は更けていきました。
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