告白
「ごめんな、アウモ……俺、アウモに食べさせてあげる魔力がなくて……ごめんな……ごめんな……っ」
アウモに弱い風魔法を食べさせていると、隣でフェリツェが涙を滲ませながらアウモを抱き締めた。
途端にアウモは俺の指を口から離し、フェリツェに抱きつく。
人の姿を取ったことで、なんとなくその判断が早くなったのでは、と感じた。
まだお腹がグゥグゥいっているのに、フェリツェを優先した。
「……アウモは“お父さん”が大好きなんだね」
「ぱぁーう」
「アウモ……っ」
言葉は通じているし、日々のお世話でアウモはちゃんとフェリツェの親心を理解してくれていたのだ。
改めて向き合い、抱き締め合う“親子”に――今更ながら俺は父と出会ってから一度しか抱き締めてもらっていないな、と思い出した。
初めて出会った時に、信じられないという目で見られ、居心地悪さを感じていたらそのまま引き寄せられて抱き締められたのだが、それ以後は貴族の親子として生活していたから。
孤児院で生活していた時は、誰かしらに抱き着いたり抱き締められたり。
もちろんフェリツェにも……フェリツェとも。
そう思ったら、自然にアウモを挟むようにフェリツェを抱き締めていた。
俺はこの人を――。
「フェリツェ、あのさ……これは、俺の感情込みの話なんだけれど…………俺と、結婚してくれないだろうか」
「…………………………は……?」
大変に長い長い沈黙のあと、ゆっくりと顔を上げたフェリツェが聞き返す。
なので噛み砕くように現状を伝えることにした。
フェリツェの今の立場。
『神』の『親』になっていること。
あまりにも危うく、翻弄されかねない危険な立ち位置にいるということ。
すでに王族はフェリツェを男性妻に迎える予定があること。
もちろん、立場のある男との婚姻がフェリツェとアウモを守る意味もあること。
反対に今のようにアウモが破壊活動をすれば切り捨てられかねないこと。
「俺はフェリツェのことも、アウモのことも守りたいんだ。国の方針でもしもアウモのこともフェリツェのことも放逐されることになっても、俺には実母の伝手もある。だから……守らせてほしい。アウモのためにも」
卑怯とは思うかもしれないけれど、アウモのことを引き合いに出して告げることができた。
そして、一度目を瞑り覚悟を決める。
「フェリツェのことが好きだから」
真正面から、自分の長年の想いを告白した。
フェリツェの反応は――放心状態。
まあ、そうなる気はしていたけれど。
「答えは……その、今すぐでなくてもいいけれど、早い方が色々、いいと思う。少なくとも来月には王族の方から打診がある予定だそうだから。今は、父がそれを止めているらしい」
「お……お、おっ……王族……!?」
「うん。それは『国として
「うっ……それは……」
本人もそれを理解しているのだろう、言い返してくることはなかった。
俺の説明をちゃんと理解して、自分の置かれた状況も把握した、と言ってアウモをまた抱き寄せる。
フェリツェの腕の中にいるのはこの世界の神の一柱。
扱いは困るし、どう育てるべきなのかもわからない。
アウモのお腹の音のせいでどうにも締まらない感じだけれど、フェリツェの深刻な悩み顔。
「さっきも言ったけれど、答えはすぐ出なくてもいいんだ。できるだけ早い方がいいっていうだけ。その、こういう方針で考えている、とかでもいい。俺はその……他の男に君を奪われたくない。だからそういう意味でも俺のことを選んでもらいたい。でも無理強いはしたくないし……」
「う……うん、まあ……その、わかった……よ?」
本当かなぁ、と疑いの眼差しを向ける。
だがそんな俺の視線をアウモが振り返って絡め取っていく。
盛大にお腹がグウウウウウと鳴る。
「ぱぁぁあう」
「ああ、限界? また少し食べようか」
「ぱぁーーーう!」
と、叫んで大きく口を開けた。
フェリツェの顔を見て確認すると、コクリ、と頷かれる。
微風の魔法を食べさせるが、本当に終わりがない。
「うん……うん、考えるよ」
「フェリツェ?」
「ちゃんと考える。俺は魔力がないから、アウモになにを与えられるのかわからないけれど……俺もアウモのことはちゃんと守りたいから」
「ぱぁう……?」
俺の指から口を離して、抱き締めてくるフェリツェにアウモは手を伸ばしてまるで「よしよし」と慰めるような仕草をした。
その仕草は、フェリツェがアウモに対してやってきたことだ。
それを見て、ああ、やっぱりフェリツェの愛はアウモにしっかり届いていたし、アウモはフェリツェの愛情をちゃんと受け取っている。
「でも、これ以上エリウスに迷惑をかけたくない。それでなくとも討伐任務でエリウスには毎回毎回世話をかけさせているし……申し訳ないじゃん」
「そんな……!」
「俺の問題だよ。これは。俺の気持ちの問題。……自分が情けなくて納得できてないっていうか。だからごめん。考えたい」
「……うん、わかった。待っているよ」
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