親子になれた気がする
「あの屋敷は貴族街の中でも平民街に近く、その上古くて所有者も亡くなって売り出されてはいるものの買い手がつかず放置されているそうだよ。城からも学園からも遠いし、周辺は手入れもされず森のようになっているからならず者の隠れ家にはピッタリなんだよね」
「はあ~~~。そんなもん騎士団で借り上げて派出所にしてしまえ」
「あ、その考えイイね。帰ったら団長に提案してみるよ」
「え!?」
冗談のつもりだったのに、エリウスに採用されちゃったよ。
いや、まあ、まさか騎士団長までこの案を採用するとは限らないか。
それよりも、アウモのご飯だ!
「ちょっと数を見るね。……叡智を司る大地の妖精よ、風の精霊とともに我に透視の力を授けたまえ――」
隣のエリウスが魔術を用いて屋敷の中を覗き込む。
俺には魔力がないから、近くで魔術を使われる度不思議な感覚を覚える。
俺には生涯縁のないものだから。
エリウスの目が白い光を宿し屋敷の中をジッと見つめる。
その横顔に、知らず見惚れた。
丹精な作り。長い鼻。睫毛も多いし、ぽってりとした唇。スッと伸びた顎。真摯な表情。
本当に、綺麗な顔をしている。
それに、あの唇。
触れたら、どんな感触なのだろう――。
「一人だね」
「へぁ!? え!? なにが!?」
「え? 屋敷の中のならず者……。多分、あいつが風の魔石を盗んだやつだと思う。屋敷の中に強い風属性の魔力も渦巻いているから、まず間違いない」
「あ……そ、そっか。ええと……何階にいたんだ?」
「一階の西の部屋だね。どうする? 外から回り込んで、窓を割って一気に片をつける?」
「…………いや」
首を横に振る。
一階にいるのなら、普通に挟み打ちがいいだろう。
「俺が玄関から入って、その部屋に飛び込む」
「そんな!」
「で、多分そいつは窓から逃げようとするはずだ。エリウスは外で待機していて、逃げ出してきた賊をポコっと」
「あ……。……うん、それがいいね。ごめん、先走ってしまった」
「いいよぉ。もしもそのまま俺に挑んできたら、俺が引きつけておくから窓を破壊して後ろからポコっとしてやってくれよな」
「ふふ、了解。それでいこう!」
詳しい部屋の位置を聞いて、布を差し込んで音を立てずに扉を開く。
トイレに起きた時にきょうだいや院長を起こさないよう、配慮を追求した結果これが一番有力だったわけだが。
そろり、そろりと入って西側の廊下、いち、に、さん……四番目の部屋。
扉に耳を押しつけて、中の様子を探るとガチャガチャという風の魔石を数えている感じの物音。
くっ、ふざけやがって……! それはアウモのご飯だぞ……!
絶対に取り返す。アウモ、お父さん絶対にアウモのご飯を取り戻すからな!
立ち上がって、剣を引き抜き左足を軸にして右足を振りかぶる。
「御用だ御用だ! 風の魔石の窃盗、現行犯で逮捕する!」
「っあ!? な、なんでここを……く、くそ!」
勢いよく床に散らばしていた風の魔石を咄嗟にかき集め、窓へと走る賊。
エリウスの言う通り、部屋にはこの男一人。
「エリウス! 外へ行ったぞ!」
風の魔石をすべて持ち出すことはできなかった賊だが、とにかく持ち出せるだけ持ち逃げしようと窓から飛び出していく。
が、開けた窓から足を出した瞬間、ゴン! という激しい音とともに『パウォーーー!』という聞き覚えのある声。
賊は窓から入ってきたモノに頭突きをかまされ、部屋の中に倒れ込み気絶。
これは痛い。
と、半透明な銀緑の羽根を広げた――アウモ!
「ええええ……!? ア、アウモー!?」
『パォウウ! パーウ、パウウウー! パーーーウー!』
「おがぁ!」
なにか喋ってんなぁと呆気に取られていたが、アウモは両手を広げて俺に飛びついてきた。
からの、俺を抱えてそのまま窓の外へと飛び出す。
嘘だろ?
「嘘だろおおオオォォォォ!?」
「フェリツェ!? あ……アウモ!?」
部屋に飛び込もうと兼を抜いていたエリウスも、予想外の存在の登場に目を剥いて悲鳴じみた声を上げる。
アウモは俺を庭に連れ出して、ガバッと頭をぐりぐり胸に押しつけてきた。
その翼……妖精のような半透明な、蝶のような形の翼だ。
妖精竜は二本の
上半身を起こして頭を撫でると、ようやく顔を上げたアウモ。
ピー、と聞いたことのない鳴き声で、服に指を突き立ててまた頭をぐりぐりしてきた。
「アウモ……どうしてここに?」
「あ! え!? フェリツェ!?」
「フェリツェ!? エリウス!」
「ええ……!? マリク、ディック!? なんでお前ら……!」
屋根の上から、騎士団の訓練場でアウモを見ていてくれたはずのマリクとディックが現れた。
身体強化の魔術を使っている、と一発でわかるが、街中でそれを使う意味がわからない。
降りてきた二人に「なにがあったの」と聞くと、アウモが突然妖精翼を生やして飛んでいったので、追いかけてきたんだそうだ。
実は俺たちが出かけてから三十分くらいで、急にピーピー鼻を鳴らすように鳴き始め、マリクとディックを拒否するように逃げ回り、なにか――おそらく俺――を探して騎士団中を駆け回っていたそう。
え、なにそれ……可愛い……。
『パプァー』
「俺のことを探しにきてくれたの?」
『パゥ』
「そっか……遅くなってごめんな? でも、ほら、アウモのご飯、ちゃんと取り戻したから」
『パォゥ』
スリ、と俺の腕の中に収まって、こてん、と肩に顎を乗せた。
う……か、可愛すぎて……顔、顔が……口元が緩む!
「で、こんなところでなにしてたんだ? お前ら」
「えーと」
とりあえず、あの賊を縛り上げてまた詰所にお届けしないとな。
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