気を取り直して

「掴んだ! 抜くよ、そいや!」

「ふっ、う、あ、待っ……一気に引き抜くの――うあぁぁっ!」

 

 イク、と叫ぶ前にエリウスが一気にスライムを抜き出してしまう。前立腺を強く擦り上げられ、達した。

 全身から力を抜けるほどの絶頂。

 中から刺激物が排除されて、ようやく快感を与え続けるモノがなくなった。

 息を整える。まだブツブツと途切れる視界。

 それでも少し時間をおけば、ゆっくり元に戻ってくる。

 

「フェリツェ……大丈夫?」

「だ、大丈夫……えっと、こ、ここは……?」

「宿の部屋。大丈夫、ここには俺とフェリツェしかいないよ」

「ス、スライムは?」

「ここにいるけど……このスライム、どうして、その……フェリツェの中に?」

「え……えっと……」

 

 息を整えながらことの経緯を説明する。

 かくかくしかじか。

 要するに――

 

「俺のエゴで、助けてあげたくて……。でもまさか、自力で回復を図るばかりかその方法がアレだとは俺も思わなくて」

「いやいや、貴方自分がどういう体質なのかを忘れていましたね?」

「い、いやぁ……それはでも……だって……」

 

 忘れていましたとも。

 忘れてたし、まさか公共魔物にまで体質の効果がはつきされるなんて思うわけないじゃん?

 

「人を傷つけてしまった公共魔物は処分が妥当。貴方をこんな目に遭わせたというのに、この魔物を生かしておくつもりですか?」

「だって、そんなことしなくてもいいじゃん。もうすでに魔核が傷ついているんだぞ。核って傷ついたら治らないんだろう? ……ずっとこのままなんて……普通に可哀想じゃん。助けられるのなら助けたい」

 

 俺もまたこの国に育まれた人間だ。

 スライムが他人事のように思えなかった。

 核が壊れなければ、半永久的に『公共物』として使用・・され続ける。

 わかってるんだ、スライムに自我はないのだから、これは人間の――俺のエゴ。

 エリウスの言っていることはごもっともで、このスライムは処分が妥当。

 

「エリウス、お願いだ」

「………………仕方のない人ですね」

 

 ジッと見上げると、エリウスが溜息を吐く。

 しかし、それならばこのスライム、どうしたらいいのか。

 ここからどれほど食べても魔力を注いでも、この子はもうこれ以上回復しない。

 核が傷つくというのは、人間で言うと欠損。

 失ったものは戻らない。可哀想だけれど。

 

「孤児院で飼ったらどうでしょう? 公共魔物ではありますが、それを言ったら孤児院も公共の建物ですから」

「そっか! イケるかな?」

「多分……。これほど弱っていたら、道の掃除も難しいでしょうから。俺の方から口添えします」

「エリウス! ありがとう!」

「っ」

 

 嬉しくて思わず抱きついてしまう。

 しかしすぐにハッとする。

 ヤバ、俺、下丸出し状態のままだ!

 

「ご、ごめん」

「い、いや……」

 

 すぐに着替える、と言って下着とズボンを履く。

 あれ、俺いつの間にブーツとかも脱いでた?

 理性ぶっ飛んでたから記憶が曖昧すぎる。

 しかし、中のものが取れたら普通に……いや……?

 

「え、エリウス……大変なことに気がついたんだけど」

「どうしたの?」

「腰抜けてる……立てない。あと、買った風の魔石、どうしたっけ……」

「あっ」

 

 エリウスも俺もそれどころではなく、買った風の魔石は置き去りにした気がする。

 しかも俺、イキすぎて腰が抜けて立てない。

 最悪すぎる。

 どんだけエリウスの足を引っ張るんだ、俺は! 最悪すぎる!

 

「フェリツェは立てるようになるまで休んでいて。風の魔石も探して、荷馬車に載せて戻ってくるから」

「う……ううう……俺……なんという……役立たず……」

「そんなことないよ! 強盗を捕らえた時、フェリツェの方が早く動いたじゃないか! ああいうところはやはり経験の差だな、って思い知ったばかりなんだから」

「エリウス……」

 

 慰められてしまった。

 ああ、みっともない……!

 

「とにかく、その……そんな、扇状的な顔のまま出歩くのは危ないから……治るまで、休んでて……!」

「え、あ……う、うん……?」

 

 扇状的?

 エリウスが思い切り真っ赤な顔を背けながら、珍しく強い口調で俺の肩を掴む。

 言ってることとやっていることがちぐはぐ……。

 けれど、言われたことを頭の中で反芻していたら、自分がとんでもない顔をしているのでは、と察した。

 

「あ、あ、う、うん。ご、ごめ、あ、ありがとう……」

「う、受付に水を頼んでくるから……ね、寝ててね」

「わ、わかった」

 

 おとなしくベッドに運んでもらって、横たわる。

 さっきの自分の痴態を思い出して、毎回恒例の一人反省会。

 出入り口の扉が開いて、閉まる音。

 いなくなる気配。

 両手で顔を覆う。

 俺、とんでもない格好で、エリウスを出迎えてしまったような気が……ウァァァァァァァァァァァ!

 

 

 ◇◇◇

 

 

「それで……風の魔石を持ち去った男が入ったのはあの空き家、ってことか」

「ああ、そうみたい。えっと、フェリツェは先に帰ってもいいんだよ?」

「い、いや! 俺はアウモのお父さんなんだから……せめてご飯くらいちゃんと持って帰ってあげたい……!!」

「う……そ、そうだね」

 

 エリウスに風の魔石を取り戻しに行ってもらって、約一時間。

 風の魔石はやはり、何者かによって持ち去られていた。

 貴族街に真昼間から連続で盗人が出るとは、と騎士としては落ち込んでしまうが貴族イコール金持ち、金持ちイコール盗みが儲かる、という方程式でガラの悪いのがうろついているらしい。

 それでもやはり平民街よりも数は少ないし、私兵を雇う貴族も多いし、貴族自体平民よりも武に秀でていたり魔術に明るいので俺たちが捕らえたひったくりのような強攻な賊は少ないそうだ。

 俺、巡回任務に出る時も平民街やそれよりさらに貴族街より遠い郊外の方ばっかりだから初めて知ったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る