第二話 神子、唆される

第13話

 人の常識では測る事のできない、龍神の社。そんな場所に暮らすとなれば、大抵の者が緊張し、気が休まらない事だろう。

 何しろ此処は本当に不可思議である。必要だと思ったものは、部屋でも道具でも次々に現れるし、蝋燭にも一人でに灯りがともる。千歳のボロボロだった衣もいつの間にか綺麗な狩衣へと変わっているし、降り続く雨は酷い湿気を齎すはずが、ここの空気はさらりとしたまま保たれている……

 と、こんな風にあげつらうとただ快適なだけじゃないかと言われそうだが、快適だろうとなんだろうと、得体の知れない場所に居るのは心地の良いものではない。一般的な感覚を持った者ならそわそわと落ち着かないに決まっている。

 だがその点、千歳は実に順応性が高かった。物心ついた頃から御供としてこの社に入るのだと教えられてきた為に、その内部について、どんな面妖な事が起きるのかと想像を膨らませていたのである。その分だけ耐性がついていたというわけだ。

 お陰様で、社で過ごす事自体には大きな問題は感じないが――しかし。

 朝、目が覚めて、天気を確認する度に、千歳は精神を削られた。

「あー……今日も止まないか……」

 障子を開け、庭に降る雨を見ると、そんな落胆の声が漏れる。

 この社に来て数日。朝一のこの流れを、毎日毎日繰り返している。今日こそは晴れていないかと期待を込め、毎度毎度裏切られるのだ。

 雨は、止まない。

 止む気配がない。

 龍神の力は、まだまだ戻らないらしい。

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