エええええええええええええレれれベべべべべべべータたたたたたたたたたたー

椎名喜咲

本編

 友人のツテで、そのマンションに出向くことになった。家庭教師のバイトだ。

 二時間で五千円、しかも夕食付き。最高の条件だ。ただ、友人は妙なことを言っていた。


 今、俺はそのマンションを見上げている。首が痛くなりそうだ。冬の午後四時過ぎ。空はすでに暗くなりかけている。


 マンションは三十階建て。威圧感がある。田舎者の俺にとって、こんなに高い建物は初めてだ。今回教える子どもは二十八階に住んでいるらしい。金持ちだな、少し妬ましい。

 だが、周囲は妙に静かだ。まるでこの場所だけがぽつんと取り残されているような感覚。最寄り駅までは人混みがあったのに、今はほとんど人影がない。


 時刻を確認する。十六時二十分。約束は十六時半だ。


 俺はマンションの中に入った。

 ぶるっと寒気がした。エアコンが効いていないのか?

 エントランスで部屋番号を押すと、少しして家主が応答した。


『はい』

「あ、■■(友人の名前)の代わりに来た家庭教、」

『どうぞ』

「え? あ、はい」

『開いてます』


 通話が切れた。なんだか素っ気ないな。

 まあ、金がいいんだから構わない。


 マンションの奥へ進むと、エレベーターが三つ並んでいる。

 それを見たとき、友人の妙な話を思い出した。


 ――四つ目のエレベーターには乗っちゃダメだ


 確かに、そんなことを言っていた。でも、ここにはエレベーターが三つしかないじゃないか。笑ってしまった。友人が俺を怖がらせようとしているだけだろう。


 チーン。

 エレベーターが降りる音がした。だが、俺の前の扉は開かない。隣からだ。目を向けると、光が漏れ出している。こんなこともたまにはあるだろう。


 しかし、俺は足を止めた。


 ……隣に、エレベーター?

 左側には一つしかないはずだ。


 エレベーターの前で立ち尽くした。

 いや、気のせいだろう。見間違えたのかもしれない。約束の時間も迫っている。ここで遅れるわけにはいかない。少し息苦しさを感じながら、俺はエレベーターに乗り込んだ。


 二十八階のボタンを押す。

 エレベーターは動き出した。


 二階、三階、四階――。


 何も起こらないじゃないか。やっぱり友人の冗談だったんだ。そう思い、ほっとしていると、ふと目の前に暗い人影が一瞬見えた。誰かが待っている?


 ――。

 ――――。

 ……あれ? 止まらない。


 表示を見ると「三十三階」。

 三十三階? ここは三十階建てじゃないのか?


 何が起きている?


 また、暗い人影が見えた。

 数字はなおも上がり続けている。


 俺は緊急停止ボタンを押した。しかし、止まらない。

 何だ? 何が起きているんだ?

 エレベーターが止まらない。


 また暗い人影が見える。


 見える。

 見える。


 暗い人影がエレベーターの前に立っている――。


 エレベーターはついに止まった。暗い人影の前で。


 扉が開こうとしている。俺はボタンを必死に連打した。開くな、開くな!

 だが、暗い人影はどんどん近づいてくる。扉が開く。

 ボタンを押す音が響き続ける――。


 カチャ、カチャ、カチャカチャ――

 カチャカチャ――

 カチャカチャカチャ――――

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エええええええええええええレれれベべべべべべべータたたたたたたたたたたー 椎名喜咲 @hakoyuto

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