第2話
「
これ名刺です、と村長へ
それを受け取った村長は、にっこり笑みを向けてきた。
彼は、
見た瞬間、俺は歓声を上げたね。コイツからはお人好しの臭いがプンプンする。お茶をズズズッとすする姿なんか
コイツが依頼人なら、予算の半分だってぶんどれるかもしれない。もっとも、その予算ってやつがそもそも少ない可能性はあるんだが……。
「予算はこれくらいでどうでしょうか」
お、さっそく来たぞ。
頭の中の計算機がクルクル回転しはじめる。
太郎のじじいが節くれだった指を一本出した。
十万? それとも百万だろうか。
下世話だが、聞かないわけにもいかない。前置きして、俺は聞いてみる。
ゆっくりと首を振られてしまった。ってえと1万円か……そんなのでできるわけがないだろう。地域復興請負人を
バカにされているんじゃないかと、皮肉の1つでもぶつけようとした矢先、さらに太郎は否定する。
「違います。1千万円です」
1千万円。
は?
「1千万!?!?」
頭ン中のデジタル計算機が、ケタを入力しきれずに爆発四散した。そんなの、市の依頼でも提案されたことのない金額だぞ。
だとしたら、報酬は――。
「そうですな。成果によって変化はするとは思いますが、5百万でどうでしょう」
俺は瞬時に首を縦に振った。菓子を前にしたガキのようにブンブンと。
こんなハチミツみたいにウマい案件を、逃す手はないだろう。
さて。
依頼を受けることになったら、俺の仕事が始まる。
といっても最初は、地域復興請負人として、働くことになる。ハナから
信用が大切なんだ。んで、信用されたら、盗るもん盗っておさらばってわけ。
であるからには、真面目にアイデアを出す。
「自然が多いですねえ」
俺は太郎のじじいへ話しかける。
公民館を後にした俺と村長は、
地域復興に役立つものはないかと調査するためである。ファンタジックな言い伝えなんかあるかもしれないしな。それを、センセーショナルに広告するだけで、あっという間にバズる。
「神様とかいないのですか。パワースポットのような、神秘的な力にあふれた」
「さあ、パワースポットなる場所はわかりませんが、神社ならあります」
そうして、茶畑の海を横断し、山を登っていく。
その山道ってのが、またひどい道だ。こんな山中だから、当然ながらアスファルトなんてない。高尾山みたいな道もなく、朽ち果てかけた階段が山頂付近まで伸びているだけ。
そして、俺はスーツにネクタイ、先のとんがった革靴。
何度滑りそうになったことか!。
そのたびに、太郎のじじいに背中に押された。その力は優しくも力強い。白髪のじいさんにしては強かった。
「筋トレとかされてるんですか」
「そういうわけではありませんが、こういう場所ですからね」
へえ、と俺は訳知り顔で
敵には回したくはねえなあ。
「そういえば、どのような方法で村おこしを?」
「そうですねえ」
ムダにたっぷり間をおく。宇宙の真理か、あるいは神様の存在証明か。はたまた、人間の善悪か――そんな深遠なことを考えているふりである。
「――因習ですね」
「はあ」
俺は因習について解説する。黒魔術や陰陽と言った歴史的なところから、八つ墓村のような文学的なところまで、舌が動きつづける限り。
その間、じじいは辛抱強く話を聞いていてくれた。いやホントにお人好しすぎないか。
「とにかくまとめるとですね。因習をでっちあげるのですよ。それで集客するのです」
「して、どのように?」
「まだなんとも。しかし、すぐに浮かんできますよ。このような素敵な自然が広がっているのですからね」
俺はそう言って、歩きはじめる。
直後、クモの巣が顔中にまとわりつきやがった。
こんな場所2度と来るかよ。
神社前の鳥居は、
本殿は、プレハブ小屋よりもこぢんまりとしてる。それに鳥居と同じくらいおんぼろだ。障子は指でも突っ込まれかき混ぜられたみたいにビリビリだし、そもそもだまし絵かファミレスの間違い探しみたいに微妙に傾いてやがる。
「皆志野神社です」
「ほう」
俺は、神社の周辺を回ってみる。なにもない。怪しげなほこらも、地底に広がる怪しげな世界へとつづきそうな
ただ、神社の正面には
「中に入っても?」
どうぞ、とあっさりと了承が得られたので中に入ってみれば、たいそうな御神体があるわけでもない。
ふーむ。
俺は
「いかがでしたかな」
「そうですね……少し心苦しくはあるのですが、このままではいけないですね」
俺は、神社の改修を提案した。なにかいかにもな神様がここにはいるのだ。それはヒゲもじゃもじゃのありがたそーな神様とは限らない。
といったことを太郎のじじいに話すと、
「それならば鬼子母神がいいですな」
「どうしてです?」
「なんでも、ヒトを、それも子供を食べていたそうではないですか。その方が怖いでしょう?」
空気がキンと冷え込んだ気がした。
じじいは、ヒトを食ったような笑みをしてやがる。比喩表現じゃないぜ。
が、確かにその通りだ。人を食うってのはタブーであり、そのような因習が残っているかもしれない、というのは観光客の心臓をわしづかみにするに違いない。
しかし、なんだこの感じは。みょうに胸騒ぎがする。
「では、次の場所に行きましょうか」
俺はなんとか
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