かまいりびと

藤原くう

第1話

 因習なんてうそっぱちだ。


 あんなもんは小説や映画を売りたいやつらが伝承ロアからひねり出した金儲かねもうけのツールで、俺もそれに乗っかってる。


 地域復興請負人ちいきふっこううけおいにん


 それが俺の職業ってことになる。その一環として、因習なんかをちょいとでっちあげるってわけよ。例えばモキュメンタリーなんかな。


 でも、真面目にやってるわけじゃない。むしろ不真面目さ。


 神様がいそうなほこらをつくったり、悪霊か妖怪が封じ込められてそうな石なんかもつくらなければ、特殊メイクで人魚を生みだしたりはしない。いるだけで気が狂ってしまう心理的瑕疵しんりてきかしを有した屋敷なんか建てない。


 ただ、計画はする。するだけして、お金が俺のとこへやってきたら、それを持ち逃げする。


 ようするに、俺は詐欺師である。


 それでは通りが悪いので、地域復興請負人なんて仰々ぎょうぎょうしい仕事を名乗ってる。






 皆志野みなしの村に向かう最中は、とんでもなく縁起が悪かった。


 家の鏡がすべて割れ、黒猫が10匹は横切り、666という数字を66回、4を444回見たし、俺の頭の上にゴミでもあるんかってくらいカラスは騒ぎまくっていた。


 全部、悪い前兆っていうが、んなもん信じない。むしろここまで起きたのなら、幸運といっても差し支えないだろ。


 そういうわけだったので、自動改札機が動かなくてつんのめってしまったときも、ニコニコ笑顔をキープできた。


 皆志野みなしの村は、N県とS県の県境にある小さな集落である。向かうためには新幹線でS駅へ向かい、そこから海沿いを走る電車を乗り継ぎ、さらにはバスに乗らなくてはならない。


 がけっぷちすれすれを通っていくバスの中で、俺はノートパソコンを開く。


 俺が調べたところによれば、この村はお茶が名産らしい。紅茶ではなく緑茶であり、農林水産大臣賞を獲得したこともあるのだとか。


 しかし、今では人手不足に少子高齢化。畑はどんどん減っていき、若者は街へ出ていっていないそうだ。八十八夜に若葉をしげらせる伝説の茶の木もその数を減らしているらしい。


 それで、俺におはちが回ってきたというわけだ。


「人がやってくるようにしていただきたいのです」


 というのが、村長が俺に依頼してきた仕事。観光客でも移住者でもいいから、とにかく村を活気づかせればいい。


 そういうのは得意だ。


 もっといえば、こういう曖昧あいまいな仕事はありがたいね。多少、金を吹っかけても出してくれるからな。


 俺は頭の中で、どんな因習をつくろうかと考える。同時に、どうやって予算をピンハネするか策をる。


 そうこうしているうちに、バスはトンネルを抜け、皆志野村に到着した。






 バスがUターンし、走り去っていく。


 俺はアタッシュケース片手に、ド田舎にいた。ただの田舎じゃないぞ、ド田舎だ。駅はなく、コンビニもない、スーパーもなければ24時間営業のカラオケボックスもない。それどころか、自販機すらないんじゃないか。


 まわりは一面の緑。段々畑には、青々とした茶の木が海のように広がっていて、そよかぜに葉を揺らしている。


 真夏を先取りしたような日差しが空から降ってきて、うっとおしい。


 サングラスを取りだし、歩きはじめる。


 だが、少し歩いたくらいでは誰とも会わない。それどころか、車さえ見えない。


 あるのは、茶畑と点々と立つ柱。柱の先端では、グリーンのファンがゆったりと回っている。


 のどかで、吐き気がするほどゆっくりと時は流れていた。


 先へと進んでいけば、民家がぽつりぽつりと見えてきた。


 村の端っこだか何だか知らないが、最初からあっちのほうにバス停を置いていてくれたら、こうやって歩く必要もなかったんだが。


 なんて、バスの会社にクレームをいれてやりたいところだったが、聞いてくれる相手もないんじゃ張り合いがない。


 そのうち、西部劇に出てきそうな広場が見えてくる。その奥に見える大きな建物が村長がいる公民館。


カモが金を背負って待っている場所だ。



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