第124話

アルバムには幸せそうな自分と俊介の写真が並んでいた。自分から俊介に書いたメッセージも、涙の跡も残ったままだった。


大好きだった。大好きだ。愛してる。


だから、会いに行く。


アルバムを閉じて、それを抱きしめて柵を越えた。


下を見下ろして、目を閉じて深呼吸する。


痛い、かな。痛いよね、きっと。


でも、俊介は、お母さんとお父さんはもっと痛かったよね、苦しかったよね。




今、行くから。待ってて。


そう思って体を前にゆっくり、倒そうとした。


そして、右足が落ちるのを止めた。


俊介は、「見てきて欲しい」「行ってきて欲しい」と書いた。


でも、違う。本当はそうじゃない。彼はあんなに下手な嘘を吐いてまで、私に「生きていて欲しい」と言ったんだ。私が気付くことだってわかった上で書いたんだ。


生きていて、寿命を使い果たすまで生き抜いて欲しいと、そう思ってあれを書いたんだ。




なら。


咲良は柵から戻った。洋服を整えてもう一度アルバムを開く。


写真に写る彼の顔だけを見て、もう一度閉じて家に帰る道を歩いた。




どうせ、今あなたのところに行ったら、「まだ見たいものがあったのに、書き切れなかっただけなのに」って、言うんでしょ。


「もっと見てきて欲しかった」って、「もっと遅く来て欲しかった」って、不満そうな顔して言うんでしょ。


それまで、私の愛する貴方のことだから。


貴方なら私のこと、見ていてくれるでしょう。待っていて、くれるでしょう。


だから、もうちょっといろんな物を見て、もうちょっと遠回りしてからそっちに行くね。会えたら抱きしめて、話を聞いて。

それでこの絵がなんだったのか、教えて。きっと大笑いするから。


愛してるよ、俊介。これからも、私の命が尽きるまで、愛し続けるよ。



"じゃあね"、俊介。また、会う日まで。

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その恋は綺麗だった【完】 平井芽生 @mei-1002

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