第104話

一週間を仕事で詰めに詰めて、他のことは何も考えないようにして過ごす。


彼の入院している病院はスマホが使えなかった。その分咲良もスマホは開かなかった。


開いたらそこに何のメッセージも来ていないことが悲しくなる。着信が来ていないことが寂しくなる。


そう思って目の前の仕事にだけ集中した。


そうしていれば一週間は思ったよりも早く進んでいって、待ちに待っていた俊介が帰ってくる日が来た。


明かりのついた部屋を見て走って階段を上る。帰ってドアを開けて、一番最初に俊介に抱きついた。


「俊介が帰ってきた! 私の最愛の旦那さん、誰より愛してる旦那さん、大好きでたまらない俊介が帰ってきた! 最高、大好き、待ってたよ」


ぴょんぴょん跳ねながら言うと、俊介も「愛してる奥さんにやっと会えた! 心配で泣いてた奥さんにやっと会えた! 俺も待たせてた側なのに、病院でこの日のことずっと待ってたよ」と軽くぴょんぴょんしてくれた。


落ち着いてから俊介の作ってくれたご飯を食べながら話す。彼の声はいつも通り優しかった。


「本当にこの一週間心配させたね。ごめんね。もう大丈夫だからね。絶対次は患者さんからもらうなんてしない」


「じゃなきゃ困るよ、まだ俊介ちゃんとしたお医者さんにもなってないのに先に患者さんになるんじゃ変じゃん。結婚式だってしたいんだから」


「うわ、痛いこと言われた。……式はね、そうだよね、春になってあったかくなってきたら考えたいね」


そうやって何もなかったみたいに話して安心する。


俊介と私にはまだ長い長い、素敵な未来が待ってるんだ。元気になった彼を見てそう思えた。


「今日は頑張ってきた咲良を甘やかしたいでーす、お皿もお風呂も全部任せて」


その言葉で箸を口に突っ込んだまま俊介に飛びつこうとして軽く怒られた。


その日は落ち込んで帰って来たあの日のように、抱きしめられてまったり過ごして、全身洗われて髪も乾かしてもらった。


「俊介、私すっごく幸せ。俊介がいなかった一週間があったからより幸せ。大好き。愛してる」


にへ、と笑って言う咲良に、目の前の彼はいつもの優しい笑顔を浮かべて、「俺もこんなに大好きで愛してる奥さんがいてすっごく幸せ。咲良が幸せだともっと幸せ」と言った。


「嬉しい、大好き。愛してるよ俊介ー!」隣に聞こえないように小さい声で叫ぶまねをしながら言う。


嬉しそうな顔をした俊介を見て咲良ももっと幸せな気分になった。


その日は抱きしめ合って眠りについた。

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