第99話
ご機嫌で出かけたその日、咲良は仕事で初めて大失敗をした。
「ごめん、今日遅くなりそうだからご飯適当に食べててくれないかな」
それだけメッセージを打ってスマホの電源を落としてからまた仕事に向かう。
いつもよりずっと遅い時間になって帰路についた。
自分の家の外を歩いていると自分の部屋に明かりがついているのが見える。
ドアを開けると良い香りがしてきて、いつも咲良がしてきていたように「おかえり咲良。ご飯できてるよ、お風呂も。どっちがいい?」と俊介が聞いてきた。
家に帰ってきた安心感と彼の優しい声で涙が出てくる。
近づいてきた彼は咲良をぎゅっと抱きしめて頭を撫でながら「どうしたの、疲れちゃった?」と聞いてきた。
「失敗、しちゃった」ぐすぐす言いながらそれだけ伝えると「じゃあご飯一緒に食べて栄養チャージしようか。それで一緒にお風呂入って、ゆっくり話そう。よく頑張ったね」といつもより更に優しい声が降ってきた。
それにもっと涙が止まらなくなって、彼に抱きついたままリビングに進む。
彼は何も言わずに後ろ歩きしてくれた。
見れば並んでいるのは好きなメニューばかりで、そこで限界が来た。
声を上げて泣き出す咲良をソファーに座らせて、彼はずっと頭を撫でてくれていた。
「辛かったね。大丈夫じゃなくていい。もうここは職場じゃないからいくらでも泣いていいんだよ」
そのまま泣き続ける咲良に、彼はひたすら優しい言葉をかけ続けてくれた。
しばらくして話せるようになった咲良からゆっくり話を聞いて、また慰めてくれる。
しゃくり上げる咲良を抱きしめて、少しも離れないままでずっと傍にいてくれる。
なんとか落ち着いた咲良は「ご飯、食べる」と言って食卓に向かった。
「温め直すよ」
「大丈夫、このまま食べたい」
二人でいただきます、と言って食べ始める。
大好きな物ばかりのその味は優しくて、涙を流しながらご飯を食べきった。
そのままお風呂に連れて行かれて一緒にお風呂につかる。
「頑張ったね」そう言われてしまえば元々止まっていなかった涙はもっと溢れてきて、咲良はお湯に顔をつけてその中で泣いた。
頭も体も洗われて、トリートメントまでしてくれて、そのまま髪を乾かされる。
髪を乾かし終わった彼が、咲良の涙の通った跡を指でなぞる。
「もう大丈夫。咲良はもう大丈夫だよ。明日もう咲良は失敗しない。もしもそれでもしちゃったらまた俺が一緒にいるから」
そう言われてまた流れそうになる涙を上を向いてこらえた。
二人でいつもよりも早く布団に入る。彼は背中を優しく叩いてくれて、咲良はその安心感で泣きながら眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます