第98話

彼は仕事に慣れ始めるとそこからは早かった。


咲良には臨床研修はざっくり説明されたことしか分からなかったが、いくつもの科を回っていて定期的に職場が変わっているような物だということは理解していた。


それなのに彼は数ヶ月でそれにも慣れて、前よりも元気な顔で家に帰ってくるようになった。


二年間の臨床受研修の後、専門の病理医になるためにはまた研修を受けないといけないらしい。


難しい世界だな、と夕食を食べながらその話を聞いていた。


夕食の片付けはいつの間にか彼の仕事になっていて、その間に咲良がお風呂に入る。


交代で俊介がお風呂に入って、戻ってきたら二人でゆっくり晩酌をするのが習慣になっていた。


その後は二人で抱きしめ合って眠りにつく。


彼は前よりも遅い時間に寝ても朝には元気に起きてくるようになった。


「おはよう、咲良今日もかわいい」「俊介も。かっこいい。大好き、愛してる」いつものやりとりも二人でにこにこしながら交わして、隣に並んで朝ご飯を作り始める。




「そういえばさ、咲良に愛してるって言われるとなんていうか胸の奥がぎゅってなるんだよ。物理的に? っていうかなんていうか。愛の力かな」


「何それ、俊介が冗談言うなんて珍しい」


「いや本当なんだって」


「んー、でも私も分かるよ? 嬉しくて幸せで胸がいっぱいになる感じがする。すっごく幸せって感じる」


「じゃあもっと言おう。愛してるよ咲良」


「やった、今日一日頑張れちゃう。私も愛してるよ、本当に世界で一番愛してる」


その場でジャンプしながら言うと俊介も真似してジャンプしてきた。


「今日の俊介はご機嫌だ」二人で笑いながらご飯を食べていつも通りに彼を送り出す。




仕事は落ち着いてきていたがせっかくなら友人を呼びたいから、と結婚式はしばらく待つことにしていた。


彼と過ごせるなら結婚式も、なくても十分すぎるくらい幸せだ。彼の隣に一生いられるならそれは私の人生の誇りだ。


その考えは二人とも同じだったようで、なんなら結婚一年の記念に式を開くことにしてそれまでお金を貯めようか、とも話していた。


いつか着るだろうウエディングドレス姿を、彼の白いスーツ姿を思い浮かべて一人でご機嫌になりながら準備した。


絶対に誰よりもかっこいい姿が見られる。絶対に一生の思い出に残る。




これまでもたくさんおそろいの思い出を残してきた、これからもそうしていく。それだけでも幸せ。


でもそこに足されたら結婚式はきっとその思い出全部の中でもハイライトになる。


そう思って一層幸せな気持ちで家を出て職場に向かった。

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