第95話

「早すぎる」と言われるかもしれないと思っていた両家への挨拶は、思ったよりも簡単にクリアできてしまった。


特に咲良の祖父母の時代ではその年齢で結婚することも当たり前だったため、何も言われなかった。


俊介の家でも「咲良さんのお話は聞いていました。留学していたときも誰より支えになってくれたって。私達のことも家族だと思ってね」と俊介に似た優しそうな両親が言ってくれた。俊介も安心した顔をしていた。



二人で「名字、変わらないままだね」と言いながら婚姻届を書いていく。


「そういえば私、俊介に告白された日に三葉に『もう結婚しても名字変わらないね』とか言って結婚すんでしょ? って言われてた。ほんとのことになっちゃったね」


「三葉さんそんなことまで言ってたんだ、あの子らしい」


「でしょ。なんか恋愛のことになると乙女で可愛くてさ。……あの二人も、そのうち婚約して結婚するのかな」


「そうなるんじゃないかな、二人もずっと続いてるしね」


そう言いながら二人で何枚も婚姻届を書いて、一番綺麗な一枚を見比べて選ぶ。


証人欄は三葉達二人に頼んだ。二人とも本人よりも緊張しながら書いてくれた。


二人でそれぞれ研修先の病院と職場に近い場所を探していく。二人で何件も内見して、せーので指した部屋は二人とも一緒だった。


新しい部屋に三月末から引っ越すことに決めて二人で新しい家に持っていきたいものをまとめる。


ソファーやベッドは新しく買うことに決めた。要らなくなった大型の家具を二人で運んでリサイクルのお店に運んで行って買い取ってもらうその作業で三日がかかった。


「さすがに疲れた……」家具が殆どなくなった俊介の部屋で二人でフローリングに寝転ぶ。


「疲れたよねさすがに……ねえ俊介、気付いちゃったんだけど、新しい家具届いたら組み立てでもっと疲れるよね絶対」


「あーもうやだ、頼もう組み立て」そう言って家具は全て組み立てまでセットでお願いした。


二人で眠る大きなベッドにソファー、リビングに置くテーブル。そこで二人はこれまで貯めてきたお金を殆ど使い切った。


「ねえ俊介、結婚式はまた二人で働き始めてお金が貯まったらにしよう。友達も皆働き始めで忙しいだろうしさ、今度もうちょっと余裕ができたら改めて結婚式開こうよ」


「いいの? フォトウエディングとかだけでも先にしなくて」


「いいの。お金も使い切っちゃったし、大事な物だからこそちゃんとしたい」



結婚式はまた今度の楽しみにして二人で頑張ろう。


目標ができた二人が強いのはもう二人とも分かっていた。

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