好き、大好き、もっと好き、愛してる
第94話
二人は大学四年生になった。俊介は試験とより専門的な病理の勉強に、咲良は卒論のための更なる研究と進路決定のために時間を費やした。
二年生だった頃よりも会える頻度は落ちた。それでも、今度は頑張っているのは俊介だけではなかった。
二人とも疲れたときには指輪を眺め、限界が来たときには連絡を取り合ってハードな一年間を過ごした。
あの日から「好きだよ」は「愛してる」に変わっていた。
咲良の研究で進歩したことはほんのわずかで、大学院に進学してもう少し学ぼうかと考えたが金銭的にそれが厳しかったために諦めた。
自分が時間を費やしてできたこと全てを卒論に書いて、いつか誰かがその先に行ってくれることを期待することしかできなかった。
それでもその勉強と研究への姿勢は企業に認められ、研究職として採用されることが決まった。
俊介も無事に医学部を卒業して試験に合格し、その先には長い研修医としての生活が待っていた。
一年間は二人が努力を重ねているうちにすぐに過ぎ去った。ついに大学の四年間が終わった。
彼に出会って、好きになって、時に寂しくなりながらも一生懸命に過ごした時間が終わった。
卒業式の日、眠くなりながら話を聞いて講堂の外に出た。卒業式が始まったのはそこからだった。どこも仲の良かった友人が皆で集まって写真を撮り始める。
もうここには来ないんだと、これまで過ごしてきた、頑張ってきた全てを思い出して少し名残惜しくなった。
友達には上京して就職する人も多い。これまで毎日のように話していたはずの皆にきっとしばらくは会えなくなるんだろうと思うと寂しかった。
そんな気持ちで袴姿で三葉や他の友人と写真を撮っているところに現れたのは、薔薇の花束を持った俊介だった。
周りにいた女子全員が騒ぐのを止めてそちらを見た。
スーツまでかっこいい彼は咲良の元まで歩いてきて薔薇を渡してまっすぐな目で言った。
「愛してる。まだ早いかもしれない。それでもこれからの人生を、困難も幸せも共にするなら、咲良以外には考えられない。結婚してください。俺が咲良の新しい家族になる」
薔薇を受け取った咲良に今度は跪いて指輪を渡す。
「受け取って、もらえますか?」
「……はい、私も俊介以外に考えられません。私の家族になって、ください。愛してます」
涙声の咲良にいつも通り優しい彼が指輪をはめて抱きしめてくれた。
時間が止まったように静かになっていたその空間はその瞬間に一気に賑やかになった。
「咲良おめでとう!」友達全員から同じ言葉を受け取った。三葉は泣いて喜んでくれて、それでまた泣いた咲良の髪を俊介が撫でた。
俊介が渡したのは十一本の薔薇の花。花言葉は”最愛”だった。
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