第93話
三年生が終わる頃、約一年間をかけた研究はなんとか及第点に達した。単位も取れたも同然だったので、残りの一年間は研究と卒論、就活に全力を注げる状態だった。
卒論に向けてこれまでの研究をまとめていく。
これまで苦労してきたことを思い出して、それだけ打ち込めることが見つかった事が嬉しくなった。
咲良は進路を考えに考えて研究者になることを決めた。
これまでにやってきたことを生かせる職場を探して、企業の研究も三年生の後期であらかた終わった。
毎日のように研究室に通って、家では卒論を書き始めて面接のための準備を始める。
そんなハードな生活も、一緒に頑張っている人がいると思うだけで頑張れてしまった。
冬の寒さが明けて、コートが要らなくなっていく。
自転車でいつものように大学に向かう。
いつものメンバーと研究をして、最後まで研究室に残る。それ以外の日もバイトを少しだけ減らして先行研究を読み返す。
そうして過ごしているうちに季節はゆっくり移り変わり、春休みに入った。
長かった一年間が終わる。彼と会える生活が戻ってくる。
楽しみにしながら毎日を勉強で埋めて過ごした。
あと二週間、一週間、あと五日、あと三日。
カレンダーに印をつけてその日を待った。何度も寝て起きてを繰り返した。
そして、ついに待ちに待った彼が帰ってくる日が来た。
もう三度目になる新幹線の中。彼が日本に帰ってくると思うと楽しみで待っていられなかった。
ウズウズしながら新幹線を乗り換えて空港に着く。
もうすぐ、もうすぐ彼が乗っている飛行機が到着する。
そう思って一年前に別れたその場所で彼を待った。飛行機が無事に到着したのを見て彼が早く出てきてくれないかと周りを見回す。
ゲートを通って出てくる大量の人の中に彼の姿を見つけた。今度は彼の方が走ってきてくれる。
「ただいま」そう言って以前と変わらない笑顔に癒やされる。ああ私この人が好きだ。そんな言葉じゃ足りないくらい大好きだ。
「おかえりなさい。お疲れ様。かっこいいお医者さんになれそう?」
「なるよ。絶対に。……伝えたかったこと、今言ってもいい?」
告白された日のようなまっすぐな目。深呼吸して彼の言葉を待った。
「ずっと支えてくれてありがとう。もう咲良には好きじゃ足りないんだ。……愛してる」
照れたような顔を見て気付いた。私が言葉で表せなかったこの気持ち。好きじゃ、大好きじゃ足りないこの気持ち。これが愛、なんだ。
「私も、愛してる」
そんな言葉のやりとりで、やっと彼が日本に帰ってきた。
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