第91話
「着く時間に空港で待ってるから」
その言葉を抱きしめて、あの日二人で乗った新幹線に乗った。その新幹線の中でも教科書を開いて、小さな机の上で勉強した。集中していると、そして彼に会えるんだと思うと時間はすぐに過ぎていった。
空港に着いて、初めての飛行機に遅れてしまわないように搭乗ゲートが開いてすぐにそこを通った。
慣れない飛行機の窓側の席でも教科書を開いて離陸の時を待った。
離陸する瞬間のふわっとした不思議な感覚に驚いて、彼に教えたくなってスマホを開いてからもう彼がそれを経験していることに気がついた。
離陸してからは外を見て過ごして、暇になってからは恋愛物の映画を見て過ごした。
どう考えても映画の中の彼氏よりも私の彼氏の方がかっこいい。どこをとってもかっこいいし優しいし私のことを大好きでいてくれる最高の彼氏。
指輪を眺めて、もうすぐ会えるんだと思って嬉しくなった。
それからはさすがに暇が過ぎて寝ようとしたものの、後ろの人に椅子を倒して良いか聞く勇気もなくてそのまま過ごした。
結局到着する頃には一周回って教科書を開いていた。着陸のアナウンスを聞いて分厚い教科書をバッグに入れてなんとかジッパーを閉める。
少し眠くなってきたその時間に飛行機は着陸した。
順番を待って、隣の人の後ろを歩いて飛行機を降りた。強面の男の人が立っていたので緊張したが簡単な英語で入国できた。自分の荷物を持って早足で英語を読みながら彼がいるはずの方向に向かう。
遠くに見えた影はずっと会いたかった彼だとすぐに分かった。見たことのある洋服にまっすぐの立ち姿。自分を見て手を振った彼の元に走った。
「俊介!」荷物を放りだして抱きついた。
もう前とは違う香り。それでも、「咲良、久しぶり」と言う彼の声は前と一緒だった。
「俊介、久しぶり。会いたかった、ずっと会いたかった」
「俺もだよ、会いたかった。好きだよ、大好き」その温かさが嬉しくて彼の胸で泣いた。
大好きな彼に、会えた。見上げれば彼も涙目で、二人で満足するまで抱きしめ合った。
重い荷物は彼が全部持ってくれて、そのまま彼の今住んでいる家に案内される。
日本は全く違う景色に目を輝かせていると「不思議な感じするよね。テーマパークみたい」と隣から声がかかってきた。
「今同じ事思ってた!」その笑顔で彼もまた笑って、家に着いて前のようにドアを開けていてくれる彼に甘えて家に入る。
家の中で「日本のと味違うけど」とお茶を出してくれる。
言われた通り味が違いすぎて渋い顔をしたのを見てまた彼はまた笑った。
そこからはこれまでの話をしながらたくさん抱きしめて、疲れたでしょ、と言われて一緒に並んで寝た。
これまでの全てが報われた気がして最高に幸せだった。
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