第90話
それからも毎日のように咲良は机に向かった。
たまにかかってくる電話を楽しみに、彼も違う場所で頑張っていることを力に。
結果はなかなか伴わなかった。それでも心は折れなかった。結果なんてやっただけついてくる物じゃない。そんなことはもう二十歳も過ぎれば分かってる。
それでも結果はやった人にしか付いてこない。それなら誰よりやるだけ。
会えない時間が咲良をどんどん強くした。
そして俊介への想いをもっともっと大きくしていった。
たまに来る電話でも、今度は笑って話せるようになっていた。
「俊介、大好きだよ。私が頑張れるのは俊介のおかげ。一人の時よりも私ずっと強くなれてる。頑張れてるよ」
「俺も、咲良がいるから頑張れてる。ありがとう」
二人で感謝しあって、二人で電話しなかった間に頑張ったことを報告し合って、その時間がまた二人を強くした。
毎日机に向かって、研究を続けて、結果が出なくてもどれだけ失敗してもそれを止めなかった。結果は簡単には付いてこない。それでもその努力を見ていてくれる人はいた。
研究室の教授は咲良に付いてよく指導してくれるようになり、同じ研究室の同期は「私ももっと頑張りたい」と遅くまで付き合ってくれるようになった。
それだけで嬉しい気持ちになってもっと頑張れる気がした。
一日も休むことなく勉強し続けてバイトし続けて、夏休みに彼に会いに行けるであろうお金は貯められた。
研究は上手く進まなくても講義自体はどんどん理解が進んで、中間試験ではもう最終試験を受けなくて良いくらいの点数が取れた。
講義後に教授に試験問題の質問をすると、丁寧に教えてくれた上「よく勉強したことが伝わる点数だ」と言ってもらえた。
嬉しかったがそれでも満足はしなかった。研究分野で結果を出したい。今年中に絶対論文を仕上げたい。
私が何かを完成させられなくてもいい。でも、私の論文を読んで次の世代の人が何かを作れるかもしれない。それが私の研究する意義だ。
そう思って研究室に籠もった。結果はどうやってみても出なくて、何ヶ月も経った。それでも諦めなかった。
次に電話がかかってきた時、何も報告できることがなくなった。
それでも彼は「頑張ってるのは伝わってる。結果が出なくても咲良の力に、誰かの助けになるはずだから」と言ってくれた。
彼も英語での専門的な講義に苦戦しているのに、それでも変わらず励ましてくれた。
そして、待っていた夏休みが来た。
研究が一段落付いた時、彼に会いに行くことを決めた。
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