第85話
五月になって、二人で「私達の記念日っていつだろうね」なんて話しながら正式に告白しあった日を記念日にすることにした。
二人とも「一日二人で過ごせればプレゼントはなくてもいいよね」と言い合っていた。
それなのに一日遊んで彼の家に着いて落ち着いた途端に「プレゼント、なくてもいいって言ってたんだけど俺が渡したくなっちゃったから」と言って箱を渡された。
「ずるい、そんなの」と言いながら開けるとそこには腕時計が入っていた。
「腕時計って、そういう意味で受け取って、いいの?」訊いた咲良に「知ってたんだ、そういう意味だよ」とさらっと言ってくる彼。
”一緒に時間を共有していたい”ーーその気持ちが一緒だったことが嬉しかった。
腕時計をはめると、隣の彼が袖をまくった。そこにされていたのは色違いの同じ腕時計。
「スマホ見がちだけどさ、こういうのも良いかなと思って」
「どうしよう、おそろいなんてもっと嬉しい。私なんにも、」と顔を覆った咲良を見て幸せそうに「おそろいの時間増やしてくれるなら何も要らない」と言った。
「私なんにも、用意して……あります!!」覆った顔を開いて得意げな顔で言った。
さすがにそこまで予測していなかったらしく彼が驚いた顔をする。
「何にも要らないよねなんて言ったけど、あげたくなっちゃったのは私も同じだから」そう言ってバッグから小さな本のような物を取り出した。
「これまでもこれからも一緒にいたいな」
そう言いながら渡した物はこれまでのデートで撮ってきた写真とメッセージの詰まったアルバムだった。
彼は一ページずつ大切になぞって見ていく。
隣に座って、その日を思い出しながら一緒に話す。
「どうしよう、こんなの用意してくれてると思わなかった」
「でしょ、私からもたまには思い出に残るようなことがしたかったの」
「思い出に残るよ、火事とか起きたらこれだけ持って外に出る」
「さすがに他の物持って出てよ、通帳とか」
そう言いながら二人でアルバムをめくっていく。メッセージとイラストが詰まった最後のページを見て言った。
「俺にはこんなセンスない、こういう絵とか描けない」
そういう彼に「じゃあ絵しりとりしようよ」と持ちかけてみる。
せっかくなんだ、弱みの一つくらい見てみたい。
そう思って始めた絵しりとりは彼の最初のターンから何を描いているんだか全く分からなくて大笑いしてしまった。
「待ってこれ何、猫? 犬? それともたぬき? 全然わかんないよもう」
「えこれどっからどう見ても狐でしょ」
「絶対違う、狐ってこんな感じじゃない?」
そう言って隣に咲良が描いた絵は狐らしい狐で、「ああ確かに……」と見比べる彼がまたおかしくて楽しかった。
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