好き、大好き、もっと好き、その上は?
第84話
それから二年生になっても二人の仲は良好で、むしろどんどんと距離は近づいていた。
俊介の専門科目が増えてきて、休みの日に丸一日会えるのは一ヶ月に一度程度になったがそれでも会える日を楽しみにして二人で頑張った。
ある秋の日のデートの朝、起きたときにどろりと嫌な感触がした。
うわ、もしかして。その考えは的中して、自覚した途端におなかも痛くなってきた。痛み止めを探して飲んでみるも効いている気がしない。
それでも会いたい。せっかく月に一度の、しかも今日は外に出るお出かけの日。カフェに行きたいねってずっと話して二人で楽しみに待って来た日。どうしても行きたい。
重い体を引きずってできるだけ温かい格好をする。ボトムスは暗い色で、万が一にも血まみれになったのがばれないように。
コンシーラーも使って顔色がばれないように。元気な顔してないと絶対に気付かれる、家で休んでた方がいいねって言われちゃう。でも一緒にいたい。
待ち合わせの駅までズキズキ痛むおなかを押さえながら歩いた。
いつもよりも歩くのに時間がかかってしまって待ち合わせ五分後に駅に着いた。
当然のように待っていた彼に「おはよう、今日楽しみだね」といつも通りを装って声をかけた。
「おはよう咲良。……今日うちにしない? 急に悪いんだけどカフェはまた今度にしてさ」
そう言って手を引いて彼がゆっくり家の方に歩き出す。しばらくして家に着いた咲良は「ベッドに座ってて」と言われてそこにおなかを抱えて体育座りした。
彼はキッチンの方に向かう。
一人にされた途端どんどん不安になってくる。
近寄ってくる彼に「ごめん、あの、私今日女の子の日で、何もできないの……」と泣きそうになりながら言った。
それを聞いて踊ってきた彼が少し怒ったような顔をした。やだ、嫌われたくない。「ごめんなさ……」最後まで言う前に毛布が掛けられた。
彼はベッドの下半分にバスタオルを敷いている。
「あの、気付いてたの……?」
「見た時すぐに分かったよ。こんな顔色の悪い子に何かしようなんて思うわけないでしょ。……カフェ行きたかったんだろうから悪いけど今日は俺と一緒にゆっくりしよう。それでまた今度一緒に行こう。……ココア作ったけど飲めそう?」
優しくされるとさっきまでとは別の理由で涙が止まらなくなってしまう。更に泣いた咲良を見て俊介は毛布を咲良に巻いてその上から抱きしめてくれた。
「俺の前で無理しないの。楽しみにしてくれてたのは嬉しいけどそれでも咲良の体より大事な物なんてないんだから」
降ってくる言葉はやっぱり優しくて涙が毛布を濡らした。
ココアを持ってきた彼からそれを受け取って一緒に飲む。
「あったかい、おいしい」
「よかった。飲み終わったら俺とお昼寝ね。痛み止めは?」
「飲んだ」
「じゃあもう寝て逃げよう。同じの教えてくれたらうちにも置いとくから」
そう言って飲み終わったカップを受け取った彼は毛布をかけ直して咲良を横にしてくれる。
「遠慮せずに寝て良いよ、バスタオルも敷いてあるし。痛いのどこ?」
おなか、と答えると彼は後ろから抱きしめておなかを撫でてくれる。それで少し痛みがひいた気がして、その日は結局夕方まで二人でお昼寝をした。
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