第80話
夜になって、またお風呂を借りてから持ってきたパジャマに着替える。
まさか誰かに見られるかもしれないなんて思っていなかったので安いジャージのセットだった。
着て出て行くのが恥ずかしい。メイクも落として上下かわいげの一つもないジャージの彼女なんて。
これでも一目惚れしてもらったっていうのに、こういうところで幻滅されるんじゃないか。
かわいい女の子らしいセット一つくらい買っておくべきだった。
「咲良大丈夫?」心配したようなその声で出て行かざるを得なくなった。
「こんなかわいくない格好で申し訳ない……」
その言葉に「なんでいきなりそんなこと言い出したの、かわいいじゃん。俺もそこのジャージ持ってるよ、俺も今日はそれにしようかな」と笑いながら彼がお風呂に向かっていった。
私は彼女らしいこと殆どしてないのに彼からは優しさが溢れてきてる、悔しい、何したら喜んでくれるのかな。
そう思ってスマホで検索をかける。「彼氏 喜んで欲しい」「彼氏 喜ばせたい」いくつかのサイトをざっと見てみる。
自分から触れると嬉しい、か。それはしてるけど何でもないような風に返されちゃうからなあ。
葛藤していると髪が濡れたままの彼が戻ってきた。
自分から、そうしないと嫌われちゃうかも。それだけは嫌だ、こんなに好きなんだもん。
そう思って立ち上がって「今日は私がドライヤーする!」と宣言した。「どしたの急に。……でも頼もうかな、嬉しい」やった、喜んでくれた。
そう思ってドライヤーを持ってきてベッドの上に座らせてもらう。彼の髪を乾かしているとやっぱり自分より優しい香りがして、なんだか負けたような気持ちになってしまう。
それでも優しく、できるだけ気持ちいいように。集中して彼の髪を乾かした。
「咲良ありがとう、気持ちいい」乾かし終わってドライヤーを置いてきた彼が髪を撫でてくれる。また負けた気分。
ちょっとだけ悔しい顔をしていたのがばれたのか、「どした?」と優しい声で聞いてくる彼。
抱きついて「なんか悔しい。負けてる気がする。彼女らしいことできてない」と漏らした。
彼は簡単に咲良を受け止めて笑った。「なんで笑うの、私俊介に嫌われたくなくて、だから頑張りたいのに」
「その気持ちが嬉しいんだよ、彼女からそんなこと言われるの嬉しくないわけないでしょ。嫌ったりしない、俺の彼女でいてくれてるだけで嬉しいの」
その言葉はとっても嬉しい、でもここで甘えたらまたいつも通りになる。
「もっとわがまま言ってほしいのに……」
「じゃあ一緒に話したいこといっぱいあるから話し相手になって。それじゃだめ?」
「だめじゃないけど、なんかもっと甘えて欲しいのに」
「甘やかしたいたちだからいいの」
結局彼には勝てなかった。俊介は抱きしめている咲良を簡単にベッドの上に上げて、二人で夜遅くまで話した。
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