第79話
「高橋さんですか」顔を覚えてもらっていたらしく、二人の顔を見てすぐにその警察官は立ち上がった。
まだ少し怖い場所、でも彼がいる。
手を離して一歩前に出て頭を深く下げた。
「昨日は本当にありがとうございました。助かりました。それで、今日は診断書を持ってきました」
その言葉に警察官の方が受け取ったことの証明書を持ってきてくれて、診断書のコピーを返してくれた。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした」
もう一度昨日のように頭を下げてくれる警察官にこちらも頭を下げる。
心なしか昨日よりも怖くなくなったようなその相手に、「もう一人いらした方にもお礼を伝えていただけますか」と言うと快く了承してくれた。
ここでも二人で頭を深く下げて交番を出る。歩きながら彼が言った。
「一回咲良の家戻ろうか。盗聴器発見の人来るの明日だし、良かったらもう一日分洋服持ってきな。ホテル取るなら俺が払うけどどうする?」
「泊まって良いなら俊介の家が、いい」
そう言うと分かった、と言って咲良の家の最寄りまでまた電車に乗った。
昼時で少し混んだ電車の中で空いた席を見つける。「ここ座ろっか」そう言う彼は男性の隣に座ってくれていて、ここまで来るのにどれだけ気を遣っていてもらったんだろうと思って心の中で感謝した。
咲良の部屋に着くと部屋の前で一言言ってから彼は何も話さなくなった。静かな中、音を立てないように動いて今度こそ寝るときのパジャマも持って家を出る。
外に出てから彼がまた話し始めた。
「明日来てくれる人、工事の人の格好してきてくれるみたいだからそこは安心してね。……あの部屋、安全だって分かったら戻れそう?」
しばらく答えなかった咲良を見て「まだわかんないよね、ごめん」と言って彼はそれ以上その話はしなかった。
彼の家に戻ってきて一息つく。「お昼何食べたい?」二人で相談して頼むことにした。
届くまでの時間に「午後の授業、いいの?」と聞いた。
「出ても良いけど出なくても単位はもらえそうだからいいよ、心配しなくて。まだ専門科目なんて殆どないし。咲良が出たかったら一緒に行こう、サボりたかったら共犯になる」
その答えはやっぱりどこまでも優しくて、「今日は一緒に、いて、ほしい」と小さく呟いた声に了解、と軽く答えが返ってきた。
「明後日からも無理はしないこと。……でも奨学金もらってるんだっけか、あんまり留年もしてられないもんね。送り迎えして三葉さんに引き継ごうか。他の女の子でもいいし、大学の外では一緒にいるから」
そんなことまで言ってくれてさっさと三葉にメッセージを打ってしまう。その優しさに甘えっぱなしになって、その日も次の日も彼と一緒に一日を過ごした。
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