第77話
次に目を覚ましたとき、目の前ではいつものように優しい顔をした彼が自分を見つめていた。
恥ずかしくなってたぐりよせた布団で自分の顔を隠しながら「おはよう、いつから見てたの……」と言う。
「いや、ついさっきだよ起きたの。起きられそう?」優しい声に頷いて二人で起き上がった。
そういえば、と思って言う。
「ごめん、準備の前に三葉に電話してもいい? 実は昨日見つかったとき三葉からの電話の音だったの。連絡返せてないし、とりあえず大丈夫なことも言っておきたいから」
当然のようにいいよ、と言った彼はつけようとしていたテレビを消してクローゼットを開けて洋服を探し出した。
音を立てないようにしているのが伝わってくるのでそれに甘えて電話をかけた。
「もしもし三葉? ごめんね昨日電話出られなくてさ。実は前の着いてきてた人が本物のストーカーになってて昨日電話くれた時警察署にいたんだよねー。
あ、大丈夫だよその人捕まったし俊介君来てくれたから。ただ立て込んでて私もパニックだったから連絡遅くなっちゃった。
ごめん。あ、そうそう。……でさ、今日と明日その関係で授業出ないからノートだけ頼んでいい? ……ほんとありがとう、今度カフェ行くときは奢りね。
その時またちゃんと話すから。人生で一番の危機と言っても良かったから怖がる準備しといて。じゃあ今日用事で俊介君と出かけてくるからまたね。はーいばいばい」
その電話を切った時に脱衣所から彼が出てきて
「交代どうぞ、今日ちょっと暑いみたいだから必要だったら先に家寄ってもいいよ。テレビ見ながらゆっくりしてるから焦らなくていいし」と言ってくれた。
ありがたく脱衣所に向かってメイクを始める。確認してみれば昨日口を固く閉じて脱衣所に置いたはずのビニール袋がない。
聞くとリビングから「そういえばあの服捨てるって聞いてたからさっき捨てて来た。良かった?」と声が飛んできた。
メイク途中の肌だけ仕上がった状態で彼の元に向かう。
彼は手紙を開いていて、「ちょっと待って待って、それ今度私がいないときにして、」と言ってとりあえず閉じてもらう。
彼の目の前に絆創膏の貼られた膝をついて、「わざわざありがとう。もうあれ触りたくなかったから嬉しい」とだけ言って戻ろうとした。
また後ろで封筒から手紙を出す音がしてくるくる振り返りながらその度に威嚇して脱衣所に戻る。
しばらくしてメイクが完成してリビングに戻った。
彼はもう封筒を持っていない。「……読み切った?」頷く彼に書いた内容を思い出して頭を抱える。
あんなの読まれたの、いや渡したのは私なんだけど。恥ずかしい、と思いながら顔を上げるといつもより一層優しい顔で「嬉しかったよ、俺も好き」と言われるのでまた顔が真っ赤になって机に頭を沈めた。
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