第76話
「どうする? まだ時間は全然あるからもうちょっとゆっくりしてから行く?」
「ん、もうちょっとくっついてから行きたい」
そう言って片付けている彼にまた後ろから抱きつく。
「じゃあ一つだけ、悪いんだけど俺がこれ片付けてる間に着替えてこられる? 俺の我慢が効かなくなりそう、その服」
彼の部屋着もハーフパンツだったので足が触れるのが気になったらしい。夜の間も気になっただろうに特に何も言わないままでいてくれた。
素直に持ってきた洋服に袖を通してから戻ってきた。まだ少し眠くて、寝るかもしれなかったのでメイクはしないままだった。
「ん、かわいい。似合ってる」すっぴんのままでも当然のように褒めてからベッドに座っていた彼が両手を広げてくれる。
その腕の中で「安心する、俊介」と言うとまた力が少し強くなった。手加減されていると分かるような、それでも抱きしめられているのが実感できるその強さ。
自分のことを大事にしているとそれだけで伝わるような気がして嬉しくなった。
それで少し笑うと、首元に少し唇が触れて真っ赤になった。
「まだ早かった?」そう聞いてくる顔は少しだけいつもよりも意地悪な顔をしていて、それを見てまた顔が赤くなっていく。
「知らない!」とだけ言って布団を被って丸まった。
「かわいいなぁもう」そう言いながら布団の上から抱きしめられているのも分かって、また恥ずかしくなった。
私ばっかり、押されてばっかり。私も大好きなのに。私からなんにもできてない。子どものようなことを思って顔だけ出してぶつからないように気をつけながら彼に軽くキスする。
また直に抱きしめられて二人で照れて笑った。
そのまま二人でまた横になって布団を被って、少しうとうとした咲良を抱きしめて背中を軽く叩いてくれる。
「それ、すき」それだけ言って、初めて完全に安心しきって体を預けた。
あったかい、良い匂い、大好き、もっと好き。なんて言ったらいいのか分からないけど、この人に一生傍にいて欲しいくらい、それくらい好き。
うつらうつらしながらそれだけ考えていた。
「あー、かわいい」その小さな言葉はもう夢の中にいる咲良には聞こえなかった。彼が静かに写真を撮っていたことも、抱きしめ直して髪を撫でたことも。
優しい目をして、すーすー寝息をたてる咲良を見ている彼のことも。咲良は何も知らないままで目を閉じた。
怖かったあの時間はもう終わった。咲良には安心できる場所が、安心して眠れる時間ができた。
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