第69話
震える声で話し始めた。それを後押しするように握った手の力が少し強くなった。
大丈夫、私話せる。はず。隣に俊介君がいてくれる。大丈夫、だ。
バッグを開けながら話した。
「今日、家に一度戻った時に郵便受けを開けました。そこに、これが入っていました。これが自宅のアパートに届いていた物の全てです」
一度コンクリートの上に落として小さな砂利が挟まったその紙の束を取り出す。
もう見たくもなかったがそれを一枚ずつ開いて見せた。
「怖くて、体が震えました。家から出たくありませんでした。でもバイトの、時間が、迫っていたので、誰にも相談せずにバイトに向かいました。
バイト終わりに、彼に連絡して、警察の方にも相談しようと思っていました。
この、最後の手紙に『今度会いに行く』って書いてあったので今日は来ないだろうと、そんな風に楽観的に思っていました。そうであってほしいと願っていました。
それにこの手紙には名前が書かれていなかったので、あの人なのか分からなくて。それに私あの人の名前すら知らなくて、そんな状態で休むわけにもいかなくて。
もしかしたら別の人かもしれないし、バイト先の方に迷惑もかけたくなくて。それでバイトに行きました」
そこでまた一呼吸ついた。警察官が一枚一枚その紙を見ている。手元にある紙を見て隣の彼も目をひそめた。
「おそらくですが同じ筆跡ですね」
「はい。私もそう思います。それに封筒にも入っていなくて、このままの状態で二つ折りにされて郵便受けに入っていました。私のアパートまで来たんだと思います。
名前と部屋番号も一致しているので無差別に全部の部屋に入れたんではないと思います。
さすがに他の部屋の方に聞いてはいないので分かりませんが、最初の日に外を見たときに目が合ったような気がしたのでもしかしたらその時に部屋番号を把握されたのかもしれません」
「コピーを取らせていただいてもよろしいですか、さっきのルーズリーフとこちらの紙全て」
「大丈夫です、お願いします」
そう言って頭を下げると二人のうち一人が紙の束を持って奥に消えていった。
もう一人がメモを取りきってゆっくり聞いた。
「それで、今日あのような、我々が見たときの状態になった経緯はお話しできますでしょうか」
「はい」
その声は重かったがそれでも勇気は隣の彼からもらった。ここまでも話せたんだ。今私が話さないとまた同じような目に遭うかもしれない。
それだけは嫌だ。今、話さないと。
明日になったらもう鮮明に思い出せないかもしれないしもうきっと思い出したくない。これで最後にするんだ。
そう思ってまた口を開いた。
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