第66話
目を覚ました時、そこには二人の警察の制服を着た男性が二人いた。時計を見れば十時を過ぎていた。
「あ、起きましたか。大丈夫ですか、お怪我されてませんか。我々が見たところ頬は赤いようですがそれ以外に殴られたりされていませんか」
その男性が近づいてきたとき、自分の体がビクッと震えた。
それを見て察した警官は一歩後ろに退いて咲良と距離を取ってくれた。
「お名前を伺ってもよろしいですか」
「高橋、咲良です。花が咲くの字に良いという字で咲良です」
「先ほどまでのことを話せそうですか」
その質問に固まって声が出なくなった。かすれた声のような物しか喉から出てこない。
その様子を見て警察官が言った。
「申し訳ありませんが今ここには男性警察官しかいません。近くの署の女性警官もしばらくの間は来ることができないそうです。お話できそうな方は他にいらっしゃいますか」
さっきの男とは違う、丁寧な言葉遣いに心遣い。それなのに男性というそれだけでその人が、助けてくれたはずのその人が怖く見える。
こんな失礼なこと、この人は助けてくれた人なのに、もっと私も感謝しないといけないのに。そう思っても震えは止まらなかった。
「大丈夫です、すみません。友人を呼びます」
なんとか答えたはいいものの誰を呼んだら良いのか悩んだ。女の子をこんな時間に治安の悪い場所に呼ぶ事なんてできない。
でも、でももし俊介君と会ってそれが怖かったら。大好きなはずの彼が怖くなってしまったら。あんなに大好きな人の前でおびえてしまったら。
もう私は一緒にいられないかもしれない。それが怖かった。
さっきまで生きることすら諦めようとしていたのに、無事になったと分かった途端今度は彼のことばかりを、自分のことばかりを考えてしまった。
古川さん……いや、俊介君は絶対にそれを望まない。彼に何かあった時に真っ先に頼るのが三葉だったら私は嫌だ。私は彼がおびえていても嫌いになんてならない。
私は死ぬところだったんだ、助かったんだ。一度全て捨てようとしたんだ、こんなところで怖がってる場合じゃない。
そう思って彼に電話をかけた。数コールで彼は電話に出た。
「もしもし? どうしたの咲良ちゃん。メッセージなしで電話かけてくるの珍しいね」
その安心する声に、何も話せなくなった。その声にならない声に彼も困惑していて、何があったのか聞いてきた。それなのに何も口から出なかった。
警察官の方が近づいてきて「よろしければ簡単に我々が見た状況を説明しましょうか」と聞いてくれる。それに甘えることにしてスマホをスピーカーにした。
話を聞いた彼は、「今すぐ行きます。十五分程度で着きます」と言って咲良に電話を返すように求めた。
スピーカーをオフにしてスマホを耳に当てる。「大丈夫。俺が行くから。そこにいれば大丈夫。怖かったね、すぐ行くよ」
その言葉でまた安心して、切った電話の画面をそのままにしてスマホを握りしめて彼を待った。
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