第64話
着いた。やっと、やっと助けてもらえる。守ってもらえる。私逃げ切ったんだ、助かったんだ。
そう思って警察官がいるであろう方向を振り返った。
そこでまた体が固まった。頭も思考を放棄しかけた。
そこには誰もいなかった。声をかけても答える声はない。
誰もいない……? そんなこと、皆どこかに行ってるって、ことで、助けてくれる人はここに今いないって、ことで。
そしたら一直線の道で交番に駆け込んだ私の姿を見ていたあの男の方がきっと先にここに着いてしまう。
いくら歩くように追いかけてきたあの男でもいつかはここに来てしまう。
それまでに警察官が一人でも戻ってきてくれなかったら、私は。どこに連れていかれるんだ、一生外の世界に出られないんじゃないか。もう誰にも会えないんじゃないか。もしかしたら逃げたことで怒らせて殺されるかもしれない。俊介君が、三葉が異変に気付く頃に私は生きてるのか。
それならまだコンビニにでも、誰か人がいるところに行けば良かった。そんな後悔をしてもどうしようもなかった。
咲良は必死で考えた。私が今ここでできること。
咲良は瞬時にカウンターを乗り越えて机の下に潜り込んで息を潜めた。
私にできること、もうこれしかない。
外に出て鉢合わせたらと思うともうここから出ることもできない。
聞こえてしまったらと思うと俊介君に電話することさえ、スマホで字を打つ音を出すことさえできない。
お願いだから過ぎ去ってくれ。お願いだから、他のどこかに行ったんだと思って外に出てくれ。
警察官も、お願いだから、早く帰ってきて。ここに来て欲しい。
助けて、助けて、助けて。誰か。
静かにドアが開く音がした。
どうか警察官であって。
その願いもむなしく聞こえた声はあの男の声だった。
「高橋さん、どこにいるのかな。僕はここに入るところを見たからいるはずなんだけどなあ。どこかな、高橋さん。隠れてないで出ておいで。僕はここにいるよ」
あいつはカウンターの手前にいる。
こっちに来るな、こっちには誰もいない。私は外に逃げたんだと思ってくれ。
ピーッピーッピー
その瞬間、無慈悲にも三葉からの電話が鳴った。
責めることなんてできない。二人で電話なんて珍しいことじゃない。きっと古川さんと何かあったんだ、きっとメッセージもくれてたけど返信がなかったから電話くれただけなんだ。
電話はすぐに切った。でもその音であの男は気付いてしまったようだった。
「高橋さん、こっちかな?」カウンターを開けた音がする。近づいて来ている足音が聞こえる。
そして、机の中でうずくまっている咲良とその男の目が、合った。
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