第57話

まずは水族館のある駅の一つ手前で下りてお昼ご飯を食べる。美味しそうな店を俊介君が探してくれていた。


店に入った瞬間に良い匂いがして、二人で「おなか空いたね」と言って笑い合う。


席に案内されてメニューを頼んでからしばらくの間はここ一週間の話をして過ごした。



「そっか、もう誰も来てないか。それなら本当に良かった。とりあえず安心だね」


「うん。あ、そうだ。安心して大学行けるようになったから部活にも結構出られるようになって、来週大会あるんだ。見に来てくれたり、とか……」


「え、行きたい。どこ? 近くのトラックあるとこっていったら逆向きの電車乗ったとこかな?」


「そうそう。特に何にも要らないから時間に来れば見られると思う。ちょっと俊介君いたらいつもより速くなっちゃうかも。でもかっこ悪いとこ見せたくないな……」


「かっこいいでしょ、絶対。同じ距離走ってる人の中で最後でも走り方とかがもう多分違うんだろうしかっこいいと思うよ。俺そんなに足速いほうじゃなかったから余計」


そう断言されたことが少し恥ずかしくてでも嬉しくて、「じゃあまた予定送るね」と言って嬉しそうにする彼のことを見た。


それだけでこっちまで幸せな気分になってしまう。


そのうち届いたご飯を美味しそうに食べるところまで素敵で、こっちのご飯までより美味しくなった気がしてしまう。


この人といると世界が豊かになる。この人と出会ったから気づけたことだ。私今、すごく幸せ。


そう思いながら二人で完食して店を出た。会計は「いいから。奢られてくれない?」なんて言って彼が全て払ってしまった。


そのまま隣の駅まで二人で手をつないでゆっくり歩く。


ヒールでいつもより遅くなっているであろう速さに、当然のように彼は歩幅を合わせてくれた。


しばらくして水族館が見えてくる。



近くにあった看板を見て少し驚いた。「休日と祝日は事前予約が必要です」あ、入れないかも。私予約なんてしてない。もっと調べておけば良かった。

どこか近くに行ける場所あったっけ。


その考えを見透かしたように「大丈夫だよ、予約してあるから」と言ってさらっと入り口を突破してしまった。


支払いもしていない。「お支払いってここ、」「予約の時についでに。彼女連れてるときに好きなとこいけるようにバイトしてるようなもんだから気にしないで」


そう言って彼は中に咲良を誘導する。


私今日全敗だ。この人に良いところ一つも見せてない、かっこいいところを見せつけられているだけ。



そう思ったのと同時に頭が撫でられて「楽しんでくれたら俺が嬉しい。俺が一緒にいたかったんだ」と聞こえた。


なんでも分かっちゃうんだ。


じゃあ来週の大会で私が良いとこ見せるから。


そう思って切り替えて彼とのデートを満喫することにした。

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