第55話

その日男はそのままいつも通りに料理を食べて退店した。バイトが終わった後に店長に言われたことを念のため話して、自分でもスマホにメモを取って連絡を待った。



五月十一日 十日にあったことを店長に話してその人が来たときは別のスタッフに対応してもらうことにした。昨日家の前にいた男が来店してしばらくしてから自分以外の人の接客は受けないと言われ店長と相談の上で接客に向かった。注文が終わった後に「彼氏はいるのか」「バイトの終了時刻はいつか」と質問を受けたためプライベートな関係にならないことをはっきり言った。そのまま何も言わなくなったため会話が終了。そのまま料理を食べて退店した。



そこまで書いたところで「迎え来たよ」と連絡が来たので店長に声をかけて店を出た。


「ごめん、待たせたかな」

「全然大丈夫」


そう言いながら周りを見渡すがそれらしき人は誰もいない。とりあえず安心して家に帰れる。


「……いる?」と小さな声で訊いてきた彼にいなさそう、と返事をして傘に入れてもらった。


「今日、その人来た?」


歩きながら訊いてきた彼に「これ」と言ってさっき取ったメモを見せた。


「うわ、バイト終わる時間まで聞いてきたんだ。大変だったね。答えなかったのよく頑張ったね。ちゃんと拒否までしてるし。これでまた何かあったら警察に相談だね」


そう言いながら歩いて九時半頃に家に着いた。家の周りを見渡して誰もいないことを確認してから二人で玄関に入る。


「俺も帰りに誰もいないの確認しておくけど念のためしばらくの間は家着いてからリビングの電気つける前にカーテン閉めとこうか。気持ちだけでも違うかもしれないし」


部屋の玄関まで来て「じゃあまた明日。何かあったらいつでも電話ね」と彼が小さな声で言った。


「ありがとう。なんか不謹慎って言うかこんな時に言うのもなんだけど、一日一緒にいられて嬉しかった」


「俺も。これ以上言うとまた理性フル稼働させる羽目になるから今日はここまでね。じゃあ」


そう言って部屋のドアを閉めてから彼が出て行った足音が聞こえた。しばらくスマホの明かりだけで過ごす。


「誰もいないよ、大丈夫そうだから安心して電気つけて」そのメッセージを見てカーテンを閉めてからようやく明かりをつけた。


良かった、今日は特に怖いほどのことはなかった。そう思いながらルーズリーフにさっきのメモを書き写して二枚をクリップで留めた。


その後は何もない日のように課題とにらめっこして眠りについた。


それから二週間の間、俊介君に送り迎えをしてもらい続けた。


その日から常連だったその人は一度も来なくなった。帰り道にも家の前にもその男はいなかった。


「最近大丈夫そうだから明日から普通に一人で行くね。これまでありがとうございました。今度普通にデートしようね」


「咲良ちゃんが安心できたなら良かった。普通に会いたいね。もしまた何かあったらいつでも教えて」


「良かったら、今週末とか、会いたいかも」


「空ける。行きたいところあったら教えてね、こっちでも考えとく」


その心地良いやりとりで心が温かくなってその日もまた深い眠りについた。

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