第52話

「さて、十二時回るけどどうする? さすがに彼女とはいえなってもらったばっかりでしょ? 


そんな女の子の部屋に泊まるのもできないし。でも多分外出るの怖いよね。……明日の朝また迎えに来ようか? それならまだ一人で外出るよりは怖くないでしょ。


今俺が外出る時もさ、夜中も十二時回ってから家から出る人もそうそう多くないだろうし。俺も家出るときにそこで入っていくやついないかちゃんと見てるから。


ちゃんと誰もいなかったらメッセージしとくし」


そのきちんと線引きしてくるところがまた優しい。こんな状況、いくらでも朝まで居座れるのにそうしようとしてこない。


「さすがにこんな本当か分からないようなことでそんな甘えるわけには……。でもまだ、ちょっと怖いから、ありがたい、かもしれない」


「分かった。気にしなくて良いんだよ、咲良ちゃんの彼氏だから俺。そうじゃなくても守りたいし。咲良ちゃんが安心できるならそれが一番だから、明日迎えに来るよ。


明日俺一限入ってるからその時間になっちゃうけどいい?」


「うん、私も一限入ってるから大丈夫。……あの、実は明日もバイトあって、」


「んーそうだな、しばらくは俺が行きも帰りも来るにしてもバイトか、その人来たら怖いもんね。夜の居酒屋バイトってことは結構お金必要な感じ?」


「そうなの、ここから引っ越せるだけのお金もまだなくって。学費は奨学金だからいいんだけど生活費は自分で払わないといけなくて」


「なるほどなあ、居酒屋だとまかないとかも出るしね。そっか、じゃあとりあえずそこ辞めるかどうかとかは別にして明日その紙もって正社員の人に話してみようか。できそう? ちょっときつければまたやり方考えるけど」


「できる。今日書いた紙見せるだけでもいいし、こっちでコピーしとけば渡しちゃってもいいし。そこまで頼るのもさすがに甘えすぎてるから」


「分かった。最悪塾講師とかだと時給高いから調べとくと良いかもしれないね。俺がバイトしてるところで良かったら紹介できるし。じゃあ今日はここで帰らせてもらおうかな。怖かったらいつでも電話して、出るから。何なら帰るまでも電話つなげとこうか?」


「んーん、来てくれただけで十分だし怖いから私ももう寝ることにする。何から何まで本当にありがとう、私も俊介君にできることあったらしたいからなんでも言ってね」


「じゃあ夜中目覚めたりしたら遠慮なくかけて。できることか、そうだな……じゃあ今度の大会見に行きたいかな、咲良ちゃんの走ってるとこ見たい。速いんでしょ? 俺の前ではいつも可愛い子だからかっこ良いとこ見たいかも」


いつものようにさらっと入る”かわいい”もまた嬉しかった。


「……そんなの、私側のわがままみたいなものじゃん。私の姿見てて欲しい、なんて。私どっちかと言えば俊介君が困ったことあったら助けになりたいのに」


「そう言ってもらえるのが嬉しいよ。じゃあ今は思い浮かばないけど何かあったら頼むね。何かあったら誰より最初に話す相手にする。咲良ちゃんにそうしろとは言わないけど今回みたいなことは話してくれると安心かな。今日も教えてくれてありがとう。何かある前で安心したよ。じゃ、また明日」


そう言って頭を撫でた彼は「鍵ちゃんと閉めるんだよ」と言って出て行った。


しばらくして「外誰もいないから安心してね、おやすみ」と連絡が来た。


三葉に今日あったこととこれから二人で学校に行くことを伝えておく。「大変じゃん。でも俊介君いてくれて良かったね。なんかあったら私にも相談してね。話なら聞けるからね」友達からも優しいメッセージが返ってきて安心した。


その日はさっきまでの不安も焦りも忘れて眠りについた。

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