第51話

その後もしばらく話して途中で気付いた。私、今どぎついメイクして泣いた後じゃない?! 


「ちょっとまって、私の今の顔どんな……きゃ、待ってこんな顔見られてたなんて死んじゃう」


鏡に映った顔はこれまでの人生の中で一、二を争うひどさだった。両手で顔を隠しながら言う。


「えっと、居酒屋さんで絡まれないようにバイトだけの日は濃いメイクしてて、それで泣いたからこんなんになってて、いつもこんなんじゃ


……ちょっとメイク落としていい?」


「いいよ、その顔だって咲良ちゃんが頑張って一人で我慢して俺に頼ってくれた分だから全然いいけど。いつものメイクと違うのも来たときから気付いてたし。


いつももう少し可愛い感じだよね」


「そんな恐れ多い……待って、すっぴん見て嫌いにならない? 一目惚れしたのが崩壊したりしない? 


それだったらもうちょっと時間もらえればいつものメイクに直すから」


「いいよそんなの、女の子の準備って大変でしょ? 俺も姉ちゃんによく『そんな短時間で準備が済むわけあるか!』って怒られてたもん。


それに今は中身も好きだから。いつかは見せてもらえるようになりたいと思ってたから咲良ちゃんの心の準備さえできてたら俺は大歓迎だよ。


逆にまだ見られたくなかったらしてきても良いよ。待ってる」


優しい、こんなに優しいなんてまたこっちばっかり好きになってく。


ずるしてその責任を自分で被ろうとしてくれたことだって今のだって、さらっと言ってくる一言が全部優しい。


もうなんか通り越して悔しい。絶対私の方が好きだもんこんなの。


化粧台でメイクを落として顔を洗ってとりあえずすっぴんに戻る。さっきよりはマシ。このまま戻るかどうしようか……。


「いつかは見せてもらえるようになりたい」ってそれって一緒に夜を過ごすとかきっとそういう日が来るって訳で、きっとその日に初めてすっぴん見せるなんて今より緊張するわけで。


言い訳しながらそのままの顔で部屋に戻って壁からそっと向こう側を覗いた。


「何してんの、こっちおいで」優しく笑いながら言う彼になんかもういいや、と思ってしまってそのまま彼のそばまで行った。


「どう……ですか、幻滅しない?」とさっきのように見上げて言う。彼は自分の口元を手で覆ったまま「ちょっとやばい、想像してたのよりかわいい」と言った。


お世辞でもそんなこと言われたら顔が赤くなる。


「……絶対私の方が好きだ、こんなの」小さい声も伝わってしまったらしい。


「そんなわけないでしょ、俺も同じ事思ってるんだから。これでも怖がらせたくないからいろいろ考えてるんだよ」


「そんなの、俊介君なら何も怖くないのに」


「ほらまたこの遅い時間に女の子が自分の部屋で無防備なこと言う。さっきまで怖がってた相手だって一人の男なんだからね。……まあ大丈夫だよ、絶対俺咲良ちゃんのこと好きだから。むしろどんどん俺の中の容量が取られてってる」


それって、私とおんなじ気持ちだって思ってもいいの?そう思ってまたその肩に頭を預けた。

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