第50話

「……あ、やばいそういえば私今日の十二時までの英語の課題ある……」


落ち着いてから急に思い出して焦った。今はもう十一時を回っている。ここから始めても不器用な自分じゃ終わらないかもしれない。


というか普段の自分なら確実に終わらない。やばい、課題出さないと今回の授業欠席扱いになる。私の授業受けた一時間半が無駄になる。


焦ってパソコンを起動したが焦りすぎてもう英文になんて書いてあるのかすらよく分からない。質問文すら読み取れない。余計に焦ってしまって手が動かない。


「え、まってもう無理こんなの、ちょっと待ってね。家に呼んだのにほったらかしてごめんね、でもこれやらないと私」


焦った声で言うと後ろから「ねえ咲良ちゃん、怖いことあったから今日はちょっと休もうか。ずるしない?」と声がかかった。


「え、こんなの答えもどこにも載ってないし……「いいから。はいちょっとこっち来て咲良ちゃん」


そのまま咲良を横に少しどかして俊介君がパソコンの前に陣取った。


そのままさっきの英文を読んで回答を……速?! なにこれ読むのすらざっとスクロールしかしてないのにそのまま回答欄埋まっていく。タイピングまで速い。


見ているその間にもどんどん回答欄が埋まっていった。


「はい、終わり。提出してもいいか最終チェックどうぞ」


十五分もしない間に全ての欄が埋まってパソコンが咲良に返された。その中身を見てみれば語数もクリアしているし間違いらしき物も見つからない。


こんなの完璧なんじゃ……私殆ど読めてないけど回答を見る限りどこにも間違った文法が混じっていないしスペルチェッカーだって名前以外のどこにもマークしていない。


なにこれ、私がやる時なんてスマホで単語検索かけては書いてを繰り返してもスペルチェッカーが発動するのに。


それにこれ、難しい単語何一つ使ってない。それなのに的確に言いたいことがわかる。


「どう? もちろん書き換えても大丈夫だから好きにいじって」


「いやそんな、これで完璧だよこんなの。こんなずるしていいのかな。普段から私真面目って訳でもないけど……こんなことしてる私のこと、嫌いにならない?」


「ならないよ、勝手に俺がやったの。逆にこういうことしちゃう彼氏嫌じゃない?」


「じゃない、ごめんなさい提出させていただきます……本当に終わっちゃった。私一人じゃ絶対間に合わなかったのに。医学部ってやっぱりすごいんだね」


「良いとこ見せられたならなにより。ちょっとくらいずるしよ、今日咲良ちゃん頑張ったから俺が勝手にやって咲良ちゃんは断れなかっただけ」


そんな優しい言い訳まで用意してくれた。

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