第46話

無事に家について三葉へのメッセージに返信しながらカーテンを閉めようとして外を見た。



ぞっとした。



そこにいたのはさっきすれ違った男だった。



男が明かりの付いた咲良の部屋を見上げてきた。目が合いそうになって反射でカーテンを閉めた。体が震えて止まらない。


待って、待って、待って。まさか本当に付いてきたんじゃ、いやまさかそんなこと。


私と同じアパート……そんなことない、入居した時に「ここは大学生が殆どでオートロックも完備なので安心ですよ」って言われた。


この暗い中、オートロックも開けずに部屋の窓が見えるアパートの横から部屋の方を眺めてるなんて絶対おかしい。


まさか本当に私のこと追いかけてきたんじゃ、……でもオートロックがある。鍵をこっちから開けない限りは部屋の前まで来られることはないだろうしさっきの一瞬で部屋までばれたとは限らない。



……待って、オートロックって言ったって中から人が出てくるときは普通に開く。その時に入られてしまったら。この部屋のインターホンが鳴ったら。


もしも家を出るときに、部屋に入るときに押し入られたら。家の中ではもう何が起きていても誰も気付いてくれない。


引っ越すこともお金のことを考えたらできない、なのにこんなに恐怖を感じたまま生活が送れるわけもない。


どうしよう、本当に私に付いてきたんだったら。どうか偶然であって欲しい。でも、でも。今日ここにいただけのことならなんとか分かる。


でも今日私はあの人とすれ違った。小道を出たところで私がもう一度出てくるのを待っていたとしたら。私帰り道にはスマホを見ていた。


大通りであの人が待っていたかなんて分からない。こんなこと、こんな憶測でしかないかもしれないこと、誰に相談すれば。


警察もきっとこれだけのことじゃ動いてはくれない。このアパートの広さじゃ防犯にと男性用の洋服を干しておいても一人暮らしなのはばれる。


さっき私の姿を少しでも見ていたならもうどうしようもない。こんなの、どうしたら。



ーー”なんかあったらいつでも電話してね”


私にいるのは女友達ばっかり。そんな子達に相談してもきっとどうにもならない。でも、彼ならもしかしたら。


こんなことで関係が壊れたら。居酒屋なんかでバイトしてるからだって呆れられたら。


好き、だからこそ言うのが怖い。私だったらどうだろう。彼が危ないことに巻き込まれそうになっていて、それを相談されたら。彼のことを嫌いに、


ーーなんてなるわけない。


私が惚れ込んだ人だ。三葉に言わせれば私には男を見る目があるんだ。どんな形かは分からない、でもきっと助けてくれる。話を聞いてくれるだけでもいい。


だから、だから助けて欲しい。そう思って初めてその番号に電話をかけた。

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