第44話
ジリリリリリリリリリリ……
そのうるさい音を片手で黙らせて咲良は目を覚ました。時間はセーフ。よしよくやった私。しかも一つ目の目覚まし。ただここで寝たら確実に遅刻だ、油断するな。
そう思って恋しい布団を手放した。今日は夜遅めの時間までの長時間バイトだから、おなかに何か入れないと確実におつまみに手が伸びる。
さすがにそんなことしたらクビにされる。私に切り崩していけるようなお金ないんだからそんなことしてられない。夜のまかないまで我慢できるもの食べよう。
冷凍食品の中から適当な物を引っ張り出してきて温め、その間にバイトに着ていくための洋服を選ぶ。
シンプルでおっさんに絡まれにくい服。咲良はいつも着ているTシャツとジーンズを着た。どうせ上からエプロンを着けるからTシャツの柄はなんでもいい。
ちょうどレンジが音を立てているところだったので、Tシャツの裾に洋服の下から手を入れて器の端を掴む。
そのまま机まで持って行って食べながらこれからの計画を立てた。最初の目覚ましで起きられたからメイクして家出る時間は充分ある。
今日は……雨か、じゃあ早めに家出るか。帰るの夜になるから念のためきつめのメイクしていこう。
そこで二つ目の目覚ましが鳴るのでそれも片手で黙らせる。ついでに残り三つの目覚ましも切った。
計画通りいつもより少し濃くメイクをした。アイラインも太く入れておく。さすがに大学がある日だときつすぎるが、居酒屋のオレンジの照明に当たるとこれが普通に見える。バイトを始めた時に先輩の女の人たちに教わっていた。
かわいくて優しそうなメイクなんてしていったら接客中に酔っ払いに絡まれる確率が上がる。特に夜の帰り。同時に店を出てくるようなやつがいると面倒なことになる。まだ日は長くないから八時も過ぎれば真っ暗だ。
その中を女子大生一人で帰るんだから自転車なしだとさすがにちょっと自衛しなきゃいけない。自衛なんてしなくて済むならそうしたいが洋服くらいで自衛できるならしておいた方が良い。
とりあえず準備は完成、このまま家出られる。外はまだ晴れてるけどちょっと雲が厚いな、急いで先に着いちゃった方が楽そう。もう出発しちゃうか。
スニーカーを履いて傘とバッグを手に持って家を出た。腕に雨粒らしき物が当たる。
ちょっと雨降ってるか? でも傘使うほどでもないか。もうちょっと本降りになったらでいいや、傘閉じるの面倒だし。そんなことを考えながら少し早足でいつもの道を通ってバイト先に向かった。
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