第41話

二人で別のカウンター席に座った。荷物を入れるかごをわざわざ取ってきて渡してくれる。

これで女の子に慣れてないなんて正直信じられない。でもさっき話してたことも嘘にも聞こえなかった。


カウンターなら顔を見ないで話せる分多少二人きりになった緊張も解けるかと思ったのに俊介君は姿勢をこっちに向けてくる。三葉じゃないのにこんなの固まっちゃう。


「さっき俺の弱点まで話されちゃってちょっと恥ずかしいんだけど、……正直なところ聞いてみてどうだった?」


「恥ずかしいどころかお友達からの心証すら良くて、弱点なんて気にもならなくて」


「それはありがたいな。慣れてるなとか思うかもしれないけど、さっき言わなかったこと言うと俺上に姉がいるからしごかれてきた部分はあるかも。

……で、前のメッセージのことだけど。俺そういうの直接済ませたいタイプだからもう一回言わせて」


「そんな、さすがに、……恥ずかしいって、いうか、」


こんなに押されている自分も珍しい。でも完全に私はこの人に惚れてる。もう抜け出せない。


「それもそうか。店の中だしね。さっき二人と分かれたばっかりだしね……じゃあ、外出たら、いい?」




そんな優しい声で聞かれたら頷くことしかできない。


自分の顔が赤くなってるのも自分で分かるんだからきっと見ている俊介君にはもう答えなんて出したも当然なはず。


それでも私に言いたいって、私から聞きたいって。そんな変に誠実なところまで見せられたら。もう、本当に抜け出せない。


彼の中ではまだ付き合う前なはずなのに、まだ正式な彼氏ですらないのに。これから他の男の人なんて目に映らなくなってしまう。


この人に、私はきっと人生のこれからの時間を全部捧げることになる。今なら引き返せる、まだ断る選択肢だって残ってる。


でも、それを私の気持ちが拒否してる。断りたくない、私がこの人のものになりたい。



そう思ってもう冷めた残りのドリンクを飲み干した。


隣にいるその人はどうやらもうとっくのとうに飲み干していたようで、「飲みきったなら持って行くよ」と言ってゴミを捨てて来てくれた。


「じゃ、外出よっか。咲良ちゃん家どっちの方?」


「あ、電車乗って私立大の方に三駅くらいのところで」


「俺と同じ方向だね。……入ったときより結構寒いけど大丈夫?」


「あ、ほんとだちょっと寒い。でも駅から家そんなに遠くないから大丈夫」


先に階段を下りて振り返ったその人と、ちょうど目線が合った。


「好きです。一目惚れ、したのは事実だけどそれ以上に内面も好きになった。話してる間に、三葉さんから話聞いてる間にも、どんどん好きになった。付き合ってくれませんか」


「私も、俊介君の中身も含めて好きに、なりました。よろしくお願いします」


「やった」そう言って笑う顔は今日のどの瞬間より嬉しそうで、その表情にまた惹かれていく。


「彼女になったからできる。……これ着てて、寒いから」


そう言ってセットアップの上着を肩にかけられる。その香りまで感じてしまって、また顔が赤くなる。


家の玄関まで送ってもらって、上着を返して部屋に入った瞬間に気が抜けてベッドに倒れ込んだ。


同じ時、俊介が上着を着直してその残り香に顔を赤くしていることなんて知らなかった。


私、完全に惚れた。

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