新しい記憶
第30話
咲良は大学に入学するまでの間に闘い尽くし、しばらく燃え尽きてから人が変わったように元の、二人が病気になる前の咲良に戻った。咲良の体が懸命に咲良の心を守った結果だった。
その姿に祖父も祖母も心配したが、咲良は何を心配されているのかすら分かっていなかった。
「おじいちゃんもおばあちゃんも何そんな心配してるの? 私大学受かったし貸与型の奨学金だってゲットしたんだよ。これ以上最高なことなんてなくない?」
「でも咲良、咲良の家族のことは……」
聞きにくそうに言うその言葉にも咲良はあっさり言い切った。
「二人とも闘いきって最期を迎えたんだからさ、仕方ないよもう。それにお父さんのこともお母さんのことも病気になってからのことはほとんど覚えてないんだ。
お医者さんからもそれで苦しくなってないならそのままでいいって言われたし。私は元気な二人を覚えてるし、私の中の二人は死なないから大丈夫だって」
泣いていたことも、幻覚を見ていたことも、日記に毎日のように書き込んでいたことも、咲良は”記憶”ではなく”事実”としてしか捉えていなかった。
そしてその二つの差は大きかった。咲良はもうその何を思い出そうとしても辛く思うことはなかったし、ああ、そんな時期もあったな、としか思わなくなっていた。
一年以上の努力によって咲良は国公立大学の理学部に合格を果たし、咲良が言ったように貸与型、つまり返済が不要な奨学金も取ることができていた。
これに関しては金銭的に困窮している人の中でも成績の良い学生しか採用されない。
咲良は高校三年間で部活に打ち込み勉強などほとんど一夜漬けだった生徒から成績トップクラスの生徒に変わっていた。
お世話になっていた祖母の家を出ることに決めて、祖母から新居となるアパートの敷金と礼金だけ払ってもらって大学に先駆けてそこでバイトをしながら過ごすことにした。
「おばあちゃん、おじいちゃん、これまでありがとうございました。私の面倒も見てくれてお金の面でも支えてくれて、そのおかげで大学に通えることになりました。
私がお父さんとお母さんを失っても生きてこられたのは、頑張ってこられたのは二人のおかげです。これからも夏休みとかには帰ってくるね」
そう言って一年弱世話になった家を出て新幹線に乗った。その時の咲良はもう、普通の大学生と何ら変わりなくこれからの生活を期待していた。
これから大学生になるんだ、楽しみだな。私高校の頃は二人の事でいっぱいいっぱいだったから新しく友達も作りたい。
彼氏とか……できるのかな、高校の頃の彼氏とは別れちゃったし新しく素敵な人見つかったらラッキーだな。
そう思いながら大学が実際に始まるまではできる限りバイトを詰め込んで過ごし、ついに大学生活が始まった。
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