第28話
次の日に病院に行った時、また受付で呼び止められて小さな部屋に通された。看護師の方から父の事について説明を受けて、何が書いてあるんだか良く分からないその紙は全て祖母に頼ることにして主治医を待った。
入ってきた主治医の顔を見て、少なくとも良いニュースではないだろう事を予測して気持ちを固めた。
昨日の今日だからまだ父が死んだことすら受け止め切れていない。さすがに腫れていた目を隠すことはできなくて「感動物の映画見てガチで泣いた」とだけ友達に説明していた。
「お父様は大変残念でした。……それで、お母様の状態も昨日から急に悪くなって今日の検査でステージ四に分類されることが分かりました」
残念なんてそんな一言で片付けられたくなかった。でも医者にそれしか言えないのは分かっていた。
母の顔を見てそれもなんとなく感じていた。抗がん剤治療を始めたときとはもう体つきも顔つきも全く違う。ステージ四、五年生存率は六パーセント。
でもあのままならきっと、信じたくないけど五年も生きていられない。
二十歳になってすらいなくたって、母の姿をこれまで生まれてからずっと見てきていたんだから分かるに決まっている。
それでも、お父さんに引っ張られるようにお母さんの調子が傾いているとしても、まだお母さんは生きている。お母さんは家に帰ってくるのかもしれない。
いや、きっと、絶対に帰ってくる。私が支えれば良い、生きていないといけない理由にならなきゃいけない。私のためでいいから生きていてくれ。
「分かりました。ありがとうございました」その声はずっとしっかりしていた。
そのまま病室に向かって寝ている母の手を握った。
やだ、これじゃ本当に死に際みたいな、そんなこと。でも私にはこうすることしかできない。寝ている母を起こすことだってしたくない。
しばらくして起きた母が「咲良、来てたんだね」とうつろな目で言った。最愛の人を亡くした次の日なんだ、当たり前だ。私は元気じゃなくちゃいけない。
もうきっと今私の心配をする元気は母にはない。
母を抱きしめて「大丈夫だよ、辛かったね」と優しい声で言った。母が自分の背中に手を回して泣いていた。
「お母さん、大丈夫。お父さんがお母さんが生きるための全てを残していってくれたんだよ。最期までかっこいいお父さんだった。お母さんの生きる意味に、私がなるから。だから大丈夫。お母さんのこと愛してるよ」
「咲良、ごめんね、ごめんねこんなママで。パパを守れなくてごめんね」そう言う母に「そんなことないよ、お母さんは私が来るまでお父さんを守ってくれたんだよ」と返した。
母は面会が終わる時間まで泣いて、そのまままた眠った。その手を握って、抱きしめてその日咲良は家路についた。
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