第20話
お父さんが、死ぬ? こんなに仲の良い家族だったのに、友達に親がうざいから早く逝って欲しいなんて言っているような子もいるのに、きっとそんな子全国にたくさんいるのになんでよりによってうちのお父さんが。
六パーセントって、たった六パーセントって、五年してから一緒にいられる可能性がそれしか残っていないなんてそんなことがあっていいの?
お母さんの方がずっと苦しそうに見えた、だからお母さんの心配ばっかりしてた。でもお父さん、ステージ四って事は絶対もうどこかはすごく痛いし苦しい。
それを隠してこれまで私に接してたの? 私毎日愛してるって伝えるような、世間でも珍しいような家の子なのに、そんな家に限ってこんなこと起きるはずがない。
嘘だ、全部嘘だったんだ。これは夢で、起きたらまた元気な二人が目の前でご飯を作って待っててくれるんだ。そう、絶対にそうだ。
お母さんだって苦しそうだったのは私の妄想で、実は元気なままなんだ。ただ肺炎にかかって肺癌になっちゃうっていうリアルな妄想をしちゃったんだ。多分テストの点が悪かったから現実逃避しちゃったんだ。
もうすぐ、もうすぐ二人とも帰ってくる。お母さんも買い出しに出てるだけだし、お父さんの定時も過ぎてるからもう少しだけ待てば二人に会える。
そう思って少し眠ろうとしてみても眠りにはつけなかったし二人とも何時になっても帰ってこなかった。
嫌だ、こんなこと事実として認めてたまるか。私の家族は全員で長生きするんだ。そうだよね、ほら、そうだって言ってくれる。
その時咲良には見えるはずもない幻覚が見えていた。現実逃避する以外に咲良の体が心を守る方法は残されていなかった。
両親は無事に帰ってくるのだとどこかから聞こえてくる。お父さんとお母さんが走ってこっちに来ようとしてるのだって見える。
ほら、大丈夫だ。二人とも走ってる、吐きそうでもないし苦しそうでもない。全部夢だったんだ。風邪でも引いて長い悪夢を見たんだ、それだけ。
二人とももう大丈夫だよって言ってくれてる。全部夢だった、もう安心して良いんだ。ここ、どこだろう。風が吹いてて緑が綺麗。空はもう暗くなってきてて星がたくさん見える。お父さんもお母さんも嬉しそうに見つめてる。ここがどこかはわからない。でも二人が元気ならどこだっていい。悪い夢から解放されたんだからもうそんなことどうだっていい。
そう思いながら咲良は制服のまま久しぶりに長い眠りについた。
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