第19話
そうして二ヶ月が経つ頃、いつものように受付に行ったときに「主治医の方からご家族様に説明があるので少しお待ち頂けますか」と言われた。
昨日もあんなに元気そうにしてたのに昨日の夜もしかして何かあったのかな、お母さんがまた吐いて苦しくなったとか、今は飲み薬だけど吐くから点滴になるとかもっとそういう重そうな治療方法に変わっていくのかな。
お母さん、昨日見たときは吐きそうな顔ではなかったけど夜になってから吐いてることだってきっと私に言ってないだけで何回もある。どうしよう、私今日病室行ってお母さんが点滴だったら。
不安がぐるぐると回り始めたときに診察室に案内された。中にいたのはいつもの先生だった。でもその表情は暗かった。
もしかしてお母さん何かあったのかな。そう思っていた咲良に告げられたのは予想外の言葉だった。
「高橋さんの親御さんの治療についてですが、お父様の病気の進行が予想以上に早くステージ四に分類されました」
時間が、止まった。
……え、お母さんじゃなくてお父さん? あんなに元気そうにしてたのに、ステージ四って最後なんじゃ、ただでさえ抗がん剤飲んで癌を小さくしてステージを下げるって話だったのに上がるなんてそんな。
「ステージ四の五年生存率は……どの、くらいですか」
聞きたくもなかったのにその言葉は出てきていた。三ですら二十パーセント強だったんだ、それよりきっと低くなる。聞きたくない、こんなこと聞きたくない。
でも私は家に帰ったら絶対に調べてしまうし一番悪いことが書いてある記事を信じてしまう。それならこれまでずっと両親を診てきてくれたこの先生に聞きたい。その返答は、その数字はあまりにも無慈悲だった。
「残念ながら六パーセントになります」
その言葉に自分の喉からヒュッと短い息の音がした。一桁なんてそんなの確率的に考えたら五年後にはもう。
「……父はもう知っているんですか。それに母も」
「もうお二人に説明はさせて頂きました」
「そうですか。……あとは何かありますか」
「いえ。ショックでしょうがまだ治療はできる状態です。緩和ケアという体を楽にする治療もありますがお父様は積極的に癌を治す治療を望まれたのでその方針で治療する予定です」
「分かりました、お忙しい中ありがとうございました」
診察室を出ても涙は出なかった。いつも通りに父に会って母に会った。
「ステージ上がっちゃったんだって? ちゃんと元気に帰ってきてよ、積極的治療するって聞いたから頑張れ。闘えお父さん」
「もちろん。ちょっと入院が長くなるだけだ」
いつも通りに愛してると言って病院を出て、いつの間にか自分の家の鍵を開けていた。
その時になって初めて実感が伴って、涙が溢れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます