第8話

それからというもの、両親はたまに咳をするようになっていた。まさかまた肺炎なんじゃないかと思って咲良は気が気じゃなかったが、親は「まさかそんなことないだろう」と言って病院には行かなかった。いいんだけど、風邪なら良いんだけどそれでも心配くらいさせて。そう思って一人で肺炎について調べた。



へえ、肺炎ってうつるんだ、そんなことも知らなかった。あの日救急隊員の人が聞いてきたのは私の肺炎も心配したからだったってことか。


結核かと思ってたけどそればっかりじゃないのか。少なくとも私は咳の症状もないし検査してもらった時も大丈夫だった。


お父さんが働いた先でもらってきたならまだ分かる、でもお母さんは専業主婦だ。なんで私にだけうつらなかったんだろう。お母さんといる時間も結構長いし私もお父さんともよく話してたのになんで私だけ。


それにお父さんも会社にもそんな人いないって答えてた気もするし……まあ今更そんなこと考えてても仕方ないか。


だって結果的には私うつってなかったんだもん。ただラッキーだったってことかもしれないし。それよりも今二人が肺炎じゃないかが心配なんだ。


できることなら二人のことを引き連れて病院に行って検査してもらいたい、でもきっと二人とも大丈夫だからとか風邪引いただけだからとか言って病院には行ってくれない。


どうしたら良いんだこんな時。肺炎じゃなくてただの風邪なら安心だから、できるなら私の安心のために行ってきて欲しいけど。お金もかかるし何より二人とも行く気がゼロだったらどうしようもない。


肺炎が酷くなったらまたあんな風に辛そうに咳をするのかもしれない、そんなのもう見たくない。あの時だってお医者さんに大丈夫だって言われてそれでも二人が死んじゃうんじゃないかって心配したんだから。今度はそうなる前に何としてでも病院に行って早いうちに見つけて欲しい。


……って、これじゃ二人が肺炎なの決定してるみたいじゃん。縁起悪い。二人が”もしも”肺炎だったら怖いから病院に行って欲しいだけなのに私がフラグ立てちゃったら今度こそ絶対に後悔するし無事に一週間で帰ってきてくれないかもしれない。それだけは困る。これでも両親とも大好きで大切なんだから長生きしててもらわなきゃいけない。


で、どうしたら二人は病院に行ってくれるんだろう。考えても仕方ないから正面突破でお願いしてみるしかないか。これ以上良い考えが浮かぶ気もしない。


そう思って二人に「お願いだから病院に行って検査してみて欲しい」と頼み込んでみるも、二人ともやはり「大丈夫だよただの風邪に決まってるんだから。前たまたま肺炎だっただけでそんなに何度もかかる物じゃないだろうし」と言って結局病院には行ってくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る