第5話
咲良が高校一年生に上がった頃、両親が二人とも咳をし始めるようになった。
「え、何二人とも季節も外れたのにインフルエンザでもなったの? やめてよ私かかったら授業置いてかれるから。皆にノートもらうのも面倒だし課題もたまっていくし。補修になったら陸上部出禁になるんだよ?」
「大丈夫だよ、ただ僕ら二人とも口開けて寝てただけだからどうせ。乾燥してたしね昨日。ママも昔から口開けて寝てるの変わらないもんね」
「パパこそすごいいびきなのに私にばっかりそういうこというんだからもう。でも咲良は心配しなくっていいよ、引いたとしてもただの風邪だろうし何日か経てば治るだろうから」
「それなら良いんだけど二人ともいつもギリギリになるまで病院行かないじゃない。前だってお父さん胃潰瘍治った後に見つかったんでしょ? 調子悪いなら早めに病院いきなね、それじゃお休み、愛してるよ二人ともーばいばいー」
二人とも咳をしながら咲良を見送った。胸を押さえるのは変わっていない。
「咲良に『愛してる』って言われると本当に胸が苦しくなるって言うかさ、なんだろう射貫かれてるのかな私」
「それ僕もだよ、なんかどっか痛くなるよね。愛娘のパワーってやつかな、……ケホッ」
「にしてもやっぱり咳出るね。風邪かな、咲良は元気そうだから良いけどあなた仕事大丈夫なの?」
「特にこれくらいの咳なら問題ないだろ、普通に働くよ。でも家にいて苦しくなったら病院行ってくるんだよ、僕も会社抜けて見に行くからその時は連絡すること。いいね?」
「わかったよ、大丈夫。今のところ私も咳しかないし、数日経ったら治るでしょうこんなの。久しぶりに風邪引いたね私達」
「確かに大人になってから風邪引くなんて久しぶりだなあ、今の会社入社してから初めてかもしれないくらい記憶にないな。咲良は小さいときは良く風邪もらってきてたけど保育園からだったしな」
「私がノロウイルスもらったときの地獄絵図覚えてる?あの時ばかりはパパに移さないように必死だったんだから」
「あの時はすごかったね、二人とも酷かった。そういえば咲良がおたふくかかった時の写真、あれ僕好きだなあ。ほっぺたに冷えピタつけて赤い顔してるやつ。かわいそうだけどかわいかったなあ」
「かわいかったね確かに。あの写真ほっぺがぷにっぷにで本当に赤ちゃんみたいだったしね」
二人とも咳はしていたし痰も出ていた。微熱はあったがそれには気付いていなかった。二人とも酒のせいだろうと思って見過ごした。その夜は、二人ともいつものように晩酌をして、昔の咲良を思い出しながら眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます