第4話

「お父さん、お母さん、おやすみなさい。お酒ほどほどにね。長生きしてもらわないとこっちが悲しいんだから」


「おやすみなさい、よく寝な。……あ、咲良、咲良、ちょっと待っていつものは? 危ない聞き忘れるところだった。パパ聞かないと寝付けないでこのままビール五本飲むかもしれない」


「あーもうわーかったよ、愛してるよ、二人ともすごく大事だよ。だから長生きしてね。ビールは一日最大でも三缶までにしてください、早死にしたらどうするの」


「パパビールこれで終わりにするわ、咲良のために長生きしないといけない」


言う度に二人は胸を押さえて嬉しがった。全くうちの親馬鹿二人は大げさなんだから。毎日言わないと子どもみたいにひっついてくる。こんなことになるならいっそ言わなきゃ良かったか。


まだ喜び合っている親二人を見て思う。


ーーまあ、言ってあげてもいっか。あんなに喜んでるんだし。


高校生にもなれば不妊治療がどれだけ心理的にも肉体的にも金銭的にも苦しいものだったのか分かる。二人はそれでも子どもが、私が欲しかったんだ。そのために何ヶ月、何年を費やしたのか私は知らない。それでも苦しい時期を乗り越えてでも子どもが欲しかったんだ。




だから私はこんなに愛されて育ってきたんだもん。それにちょっとくらい感謝を伝えたって損はないし。


あんなに喜んでるんならなおさら、言ってあげるだけであんなに親孝行してる気になれることもそうそうないだろうしさ、実際一度口に出して慣れてくればそんなに恥ずかしくもないし。


もう初めに言った頃からなんて言うか恒例行事って言うか一日の最後の締めくくりみたいになってきてるし。流れ作業……って言ったら変か、さすがに二人のこと愛してるのには変わりないわけだし。




まあさすがに友達に言う気にはなれないけど。そんな高校生の話聞いたこともない。


友達は親父が五月蠅いだなんだといつも愚痴ってるしその中で家族大好きでーすなんてわざわざ言う必要も感じないし。


そんなこと言ってマザコンだのファザコンだの言われたら二人がかわいそうだし。不妊治療云々の話だって二人のためにはしたくないし。



でも、この年になっても親と仲良しなんてすごい恵まれてるんだろうな。喧嘩だって殆どしないし。自分もいつか子どもを持つときが来たら、まあいつかだから一生独り身かもしれないけど、高校生にもなって愛してるなんて言ってくれる娘がいたら自慢でしかないだろうし。まさかパパ会社で自慢とか……考えるの止めよ、さすがに恥ずかしいし社会人としてそれをしてたら馬鹿馬鹿しい。



さっさと寝て明日の中間テストを倒さなきゃいけない。もうここまできたら睡眠学習に頼るしかない、今更詰め込んだところで良い点なんかとれないし赤点じゃなきゃいいや。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る