第86話
最後に花菜ちゃんの面談に入った。花菜ちゃんにはお父さんが一緒にいてくれた。二人で席に座って三人で頭を下げる。
「まずは花菜さんの学校での様子をお伝えします。花菜さんはとても優しい性格で、友達の気持ちを思いやることが非常に得意です。
このクラスには様々な特性の子がいますが、花菜さんは中でも非常に他の子の気持ちを考えることに優れています。
成績に関しましても、音読はゆっくりになってしまいますが間違いなく読むことができるようになっていますし、算数は得意なようです。
今は小学校一年生に理科と社会はなく代わりに生活の時間が設けられているのですが、朝顔を育てる際には一番多く知識を持っていて積極的に発言や観察をしてくれていました。
夏休みの観察日記も一番丁寧だったと思います。写生大会でも、見ただけで花の種類が分かったらしく、描き分けて皆に説明してくれていました。
ご家庭での話や栽培の結果だと思いますし、これからも育てていきたいとおっしゃっていました。
朝顔を育てる際に途中で特別支援級ではない三組の子に朝顔を踏まれてしまったことがあったのですが、その際も最後までしっかりと相手の話を聞いた上で対応できていました。
そういった面では非常に強い子だと思います」
「先生から許さなくても良いと教わったと聞きました。この子は優しくて人に言い返すようなことはあまりしないのですが、その時は最後まで聞いて許さないことに決めたそうですね」
「はい。花菜さんが一方的に悪いことをされており、反省していない様子でしたので差し出がましいようですが私からアドバイスさせていただきました。
仲良くしたくないからといって人に意地悪なことをする子ではないと思ったので伝えることができました。
最後まで許すつもりで話を聞いてくれていたようなのですが、相手が反省していない上に障害者差別ともとれる発言をしたので許さないと決めたそうです。
ご家庭で悪影響を出してしまっていたら申し訳ありません」
「いえ、この子はいつも悔しいときや辛いときも我慢するような子だったので、先生から『許さなくてもいい』と聞いてかなり楽になったようです。
大人になると当たり前になりますが小学生だとなかなか伝えられないことでしたので、先生が伝えてくださって感謝しています」
「そうですか、それは良かったです。ご家庭での様子はどうでしょうか」
「家でもいつも学校の話を良くしています。先生が音読はゆっくりで良いと言ってくれた、友達と仲良くなれた、と嬉しそうに話しています。
配慮していただき本当にありがとうございます」
「いえ、それが特別支援級の存在意義ですので。来年からは普通級の教師が担当することにはなりますが、引き継ぎは確実に行いますしこれまでと同じメンバーで学習することになるのでご安心ください。何かご不明な点はございますでしょうか」
「いえ、私からは特に。……花菜は話したいことあるか?」
「秋葉先生、花菜の朝顔駄目になっちゃった時一緒に怒ってくれてありがとう。花菜我慢しなくてもいいんだって思えて、びっくりしたけど嬉しかった」
「そっか、それは良かった。こちらこそありがとう。よく頑張ったね」
花菜ちゃんはそれににこっと笑ってくれて、全員の面談がそこで終わった。
自分の一年間の成績は、きっと悪くない。皆が皆成長してくれた。もちろん皆自分の力で壁を破ってきた。
その、端っこの手伝いくらいはできたかな。そう思うと少し誇らしかった。
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