第83話

次の日の番だったのは恵ちゃんだった。


見たことのあるお母さんが「この前は申し訳ありませんでした」と言いながら頭を下げてくる。


「相手の子の怪我も無事に治りました。その際は恵さんへのご指導をありがとうございました。恵さんはその次の日しっかり謝って本人から許してもらえていました。


心から謝ったのが伝わったんだと思います。


……それで、普段の授業についてですが、まだなかなか座学の授業中に一時間集中し続けることは難しいようです。


ただ二人でメモを取って集中するよう促したり、体育の際は気をつけるようにしていただいたりして段々と集中できる力はついてきていると思います。


ご本人が怪我をさせてしまったことを反省してもう同じ事をしたくないと言ってくださりました。その面ではかなり頑張っていただいていると思います。


今後担任の先生が交代しますので、充分に引き継ぎをした上で今後も支援をしていく予定です。


全体的な成績は非常に優秀というわけではありませんが、本人なりに毎回なんとか理解しようと頑張っている様子が見受けられます。


恵さんは場面緘黙症の子に自分から話しかけてくれる事が多く、輪には入れていなかったその子が他の児童と一緒に遊べるようにしていただきました。


「楓ちゃんって言うんだよ!」


「そうだね、楓さんに話しかけてくれていたので運動会の練習のような学年全体での授業の時も非常にありがたかったです。ご家庭ではどのようにお過ごしでしょうか」



「怪我をさせてしまった子が無事に治ったとのことで安心しました。


恵にはかなり叱ったのでそれが学校できちんと許してもらえる謝罪をできたというところではこの子が成長したと思います。


家でも落ち着きはないのですが、友達との話はすごく多いです。授業で難しかった、と話してくることもありますが、先生が一緒に勉強してくれたとも話していました。


ありがとうございました。秋葉先生の話もかなりしていました。


一緒に絵を描くのを手伝ってくださったり、遊んでいる時にも一緒に入ってくれたりしてくださっているらしく非常にありがたいです。


避難訓練の日も帰ってきた時は動揺していたのですが、先生が守ってくれた、と話していました。ありがとうございました」



「あんまり話さないでよ、恵恥ずかしい」



「じゃあ恵さんから話したいことはあるかな?」



「恵から? うーん、先生が最初の方は嫌だったけど、先生が一緒にいろいろしてくれたおかげで一年とっても楽しかった。


先生が間違えるなんて恵思ってなかったけど、先生が謝ったみたいに恵も美咲ちゃんに謝らなきゃって思えた」



「先生すみません、恵あんまりそういうこと言わないのよ」



「いえ、いいんです。最初の一ヶ月程度私が指導に関して非常に未熟な部分がありまして、児童の皆さんに教えていただきました。恵さん、ありがとう。


お母様は何か話したいことはございますでしょうか」



「いえ、一年間ありがとうございました。大変お世話になりました」そこで二人目の面談も終わった。



ここまでなら悪くない点かな、なんて思いながら次は美咲ちゃんのおうちだったので少しこわごわしながら次の時間を待った。

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