第82話

二月後半に入って、本格的に一年間の最後の時期になった。その週には三者面談をすることになっていた。これが自分への一年間の成績だ。


日時を変えて都合の良い日にちで面談を受けてもらう。最初になったのは楓ちゃんの家だった。


帰りの会が終わってから緊張したような、不安そうな顔で親御さんを楓ちゃんが待っている。


「緊張しなくても大丈夫だよ、そんなに怖いこと言わないよ」と声をかけて、それからは一緒に絵しりとりをしながら待っていた。


楓ちゃんは写生大会の時もそうだったが基本的に絵を描くのが上手らしく、どれもすぐに見て分かる絵だったので褒めながら一緒に遊んでいた。


するとそこにお父さんらしき人が来た。背が高く、柔和な雰囲気のある人だった。


楓ちゃんが走り寄っていって、かがんでもらって何か話す。


お父さんが相手なら学校の中でも多少は話せるのか、多少話せる程度になるまでここが安心できる場所になったのかは分からない。


三人分並べた机に「ぜひどうぞ」と誘導して三者面談が始まった。


「楓さんは基本的に学校の授業内容は良く理解しており、プリントやテストにもそれが表れています。授業中もよく話を聞いて頷いてくれる部分が多いです。


入学当初は話しかけてもらえず少し辛い思いをしたようですが、今になっては五人いる児童の輪の中に入っていつも楽しそうにしていらっしゃいます。


皆言葉を使わないゲームをしたり、筆談をしたりと一緒にいられる方法を模索しています。将来の夢もお菓子屋さんになることだと教えてくれました。ご家庭の様子はいかがでしょうか」



「うちではよく話す子なんですが、毎日の音読は『先生が大事だって教えてくれたから』と言って欠かさず聞かせてくれています。


友達の話も五月くらいまではあまりしなかったのですが、最近はよく友達と遊んだ、友達のここがすごかった、と話してくれるようになりました。


勉強も家では黙々としています」



「そうですか、それは何よりです。それと、楓さんは川の中まで丁寧に描いた絵を妹さんが喜んでくれたと嬉しそうに教えてくださいました。


先ほどまでも絵しりとりをしていたのですが、絵がとてもお上手なようで、今後の図工の授業も勝手ながら楽しみにしています」



「うちの下の子はなかなか病院から出たことがないような子なので楓が頑張ったと見せてくれたので家で額に入れて飾っています。


それからホイッスルの携帯を許可していただけるというお話を伺ったのですが」



「はい、こちらで許可できるように話し合いが進んでおりますので、必要であれば買って首からつるすような形で持っていてもらっても構いません」



「うちでは話してくれる分、緊急用の物としての考えが足りない部分があったのでとてもありがたいご指摘でした。ぜひそうさせていただこうと思います」



「分かりました。正式に許可を通します。あと何か気になることはございますでしょうか」



「学校で声が出ない楓が家で友達の話をしてくれるのが非常に家族としてはありがたかったです。一年間お世話になりました。ご配慮をしていただいてこそだと思います」


そう言ってお父さんが頭を下げた。こちらこそお子さんを預けていただいてありがとうございます、と言って一人目の面談は終わった。

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